タブッキののこしたもの(概要)

第385回例会

・日時:2012年7月24日火曜日19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:村松 真理子 東京大学大学院総合文化研究科准教授

・演題:タブッキののこしたもの


 今回のテーマは,今年の3月に亡くなった現代イタリアの最大の作家であるアントニオ・タブッキに関するもので,題して「タブッキの残したもの」,講師は東京大学大学院総合文化研究科准教授の村松真理子先生です。おもに先生はご自分が翻訳された彼の処女作「イタリア広場」を手がかりに,タブッキの文学の特徴,文体を鮮やかに分析されました.彼の作品は同時代のイタリア人作家の中では飛び抜けてヨーロッパ的・国際的ですが,その中には常に二面性が隠されていること,その二面性は彼が生きた時代と育った土地,トスカーナ地方のピサと結びついていることを示されました.彼の作品の二面性はテーマとしては「個人と社会」「民衆と国家」「ファシズムとレジスタンス」であり,スタイルとしては「マニエリスムとアンガージュマン」として表されます。先生はタブッキが何度かノーベル文学賞候補に挙げられながら,それを受賞する前に亡くなってしまった事を嘆いておられましたが,難しそうに思えても,読んでみると直接,読者の心に訴えてくるものが多い彼の文学にぜひ親しんで欲しいと,講演を終えられました。さいわい日本には須賀敦子さんの訳(「インド夜想曲」「供述によるとペレイラは」「逆さまゲーム」)を初めとして,村松先生ご自身の訳(「イタリア広場」)など,多数のタブッキの作品が翻訳されています。これを機会にぜひ皆さまもタブッキを読んで頂きたいと思います。(橋都)