ピランデッロの短編について -カオス・シチリア物語を中心に-(概要)

第392回例会

・日時:2013年2月19日(火)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:白崎 容子 慶應義塾大学文学部

・演題:ピランデッロの短編について -カオス・シチリア物語を中心に-


 イタリア研究会第392回例会が開かれました。演題名は「ピランデッロの短編について:カオス・シチリア物語を中心に」,講師は慶應義塾大学文学部教授の白崎容子先生です。ご存じの方も多いかと思いますが,ピランデッロの短編集「1年間の(あるいは1年のための)物語」を題材として,イタリアの映画監督タヴィアーニ兄弟が1984年に「カオス・シチリア物語」を製作し,この映画は日本でも上映されました.白崎先生は,この短編集から映画で使われた短編6編を含む16編を尾河直哉さんと一緒に翻訳され,昨年「ピランデッロ短編集:カオス・シチリア物語」として出版されたのです。今回は有志会員とともにタヴィアーニ兄弟による映画「カオス・シチリア物語」を鑑賞した後に,通常の例会が行われました。映画で使われている短編は「ミッツァロのカラス」「もうひとりの息子」「月の病」「甕」「レクイエム:主よ,彼らに永久の安らぎを」「登場人物との対話:母との対話」です。これらの6編はあきらかにピランデッロの故郷であるシチリアを舞台にしていると考えられます。白崎先生は,若くしてシチリアを離れながら,心情的にはシチリアへの親近感を忘れなかったピランデッロの作品に認められる,シチリアの土俗性と寓話性,そして諧謔性と訳される「umorismo」が,この短編集にはとくに色濃く認められ,タヴィアーニ兄弟はそれをうまく映像化していることを,多くの場面を例に挙げながら示されました.とくに「甕」「レクイエム」では,権力と民衆との対立がテーマとなっており,そこで発揮される民衆のしたたかさが,作品にユーモアと奥行きとを与えていることを強調されました.いつも面白いお話で,われわれイタリア研究会会員に刺激を与えてくださる白崎先生,ありがとうございました。 (橋都)