壁画保存修復の世界―イタリア芸術の偉大さとルネッサンス(概要)

405回例会

・日時:2014年3月24日(月)19:00-21:00

・講師:前川佳文氏(壁画保存修復士)。

・演題:壁画保存修復の世界―イタリア芸術の偉大さとルネッサンス

・会場:南青山会館2F大会議室

 

 3月24日の第405回イタリア研究会例会のテーマは,フレスコ画修復のお話でした。講師は15年をイタリアで過ごし,修復学校を卒業した後には,日本人として初めてのプロの壁画修復士として,多数のフレスコ画修復に携わった前川佳文さん,演題名は「壁画保存修復の世界—イタリア芸術の偉大さとルネサンス」でした。かつて日本のテレビ会社がスポンサーとなって,ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂の天井画と壁画の修復が行われ,話題になったことは,多くの方が覚えておられると思います。前川さんは,中学生の時にそのテレビ番組を見て感激して,その気持ちをそのままに保ち,大学卒業後にイタリアに渡ってプロの壁画修復士となったという,すばらしく感動的な経歴の持ち主です。前川さんは,壁画の歴史,フレスコが生まれることになった経緯とその科学的な根拠から話を始めましたが,とくに初期ルネッサンスの画家ジョットが果たした大きな役割を強調されました。かれがフレスコの技法を完成したことによって,イタリア全土で共通の技法が用いられるようになり,現在の修復もそれによって可能になったという事です。イタリアでは修復の倫理も研究されており,恣意的な修復はきびしく諫められ,修復を行う場合にも,後世の人間がオリジナル部分と修復部分とを区別できるようにすることが求められ,そのための特殊な技法も開発されているということです。またフレスコ画のいちばんの敵は水分とそこに含まれる塩素だそうです.それを除去する方法も編み出されており,まさに人間の病気の診断・治療と同じだと,前川さんは言っていましたが,まさにそのとおりだと思います。現在の最大の問題点は,イタリア経済の不調で,そのために美術修復の予算が付かず,前川さんも,仕事があっても給料未払いが続いたために,後ろ髪を引かれる思いで日本に戻ったという事ですが,ラファエロが関与している可能性を指摘されているフレスコ画の修復のため,今年は戻る予定だとのことで,その話をする前川さんは本当に楽しそうでした。たいへんな仕事だとは思いますが,好きなことを仕事として行うことのできる喜びが,聴衆にも伝わってくる,素晴らしい講演であったと思います。 (橋都)