初期近代イタリアの百科全書的庭園(概要)

第412回例会

・日時:2014年10月15日(水)19:00-21:00

・場所:南青山会館2F大会議室

・講師:桑木野 幸司 大阪大学文学部准教授

・演題:初期近代イタリアの百科全書的庭園 

 

 第412回イタリア研究会例会の演題は「初期近代イタリアの百科全書的庭園」,講師は大阪大学文学研究科准教授の桑木野幸司さんでした。桑木野さんは,建築史の研究者ですが,単なる構造物としての建築の歴史ではなく,知の表れとしての建築,庭園に興味を持っており,それが現在の研究テーマであるヨーロッパとくにイタリアの初期近代の庭園の研究に結びついているという事です。


 初期近代とは,15世紀末から17世紀初頭を言い,この時期には,古典文明の再発見(いわゆるルネッサンス),新大陸の発見,印刷術の発明などにより,ヨーロッパ人の持つ知識・情報量が飛躍的に増加しました。それにより,彼らはその知識・情報を何らかの形で整理する必要に迫られました.そのひとつの手段が記憶術ですが,桑木野さんは,記憶術と当時の庭園との間に関連があるのではないかという未開のテーマに挑んでいます。庭園と記憶術との関連としては,記憶術に用いられる記憶を載せる場(ロクス)としての庭園の役割と,人間の頭脳の内容を投影し,他の人たちにも見える形にするための庭園という2つの役割があります。桑木野さんは,後者の例として,アゴスティーノ・デル・リッチョの庭園論を取り上げ,彼の描く庭園が百科全書的な拡がりと構造を持っている事を示しました。そして一般には記憶と創造性とが相反するもののように考えられているが,記憶なくして創造性はないと,講演を締めくくりました。


 参加者も,このテーマには非常に興味を覚えたようで,講演後には,さまざまな質問が出ました.桑木野さん,刺激に満ちた講演をありがとうございました。今後もさらに研究を続けて頂きたいと思います。 (橋都)