西欧ルネッサンス再考(概要)

11月例会(437回)

・日時:2016年11月21日 (月) 19:00-21:00

・場所:東京文化会館 4F大会議室

・講師:西本 晃二氏(東京大学文学部名誉教授

・演題:西欧ルネッサンス再考

 

イタリア研究会第437回の例会が開かれました。講師は元東京大学イタリア文学科教授でローマの日本文化会館館長も務められた西本晃二先生です。先生は2015年に大部の「ルネッサンス史」を上梓され、これまでの伝統的なルネッサンス観に一石を投じられました。そこで今回は「西欧ルネッサンス再考」という題で講演をお願いしました。

 

これまでのルネッサンス研究はミシュレやブルクハルトなどアルプス以北の学者によって主導されてきました。彼らは美術作品に注目し、ルネッサンスを優れて美術を生み出した運動として捉えてきました。西本先生はそこに偏りがあると主張します。確かに美術作品は物として残るために目につきやすいし研究もしやすいわけですが、それを生み出す経済活動や政治の動きは物としては残りませんので、研究をやりにくいという難点があります。しかしそうしたいわゆる下部構造こそが重要であり、ルネッサンスそのものではないかというのが先生の基本的な考えです。

 

新しい文化が生まれるためには富の蓄積が必要であり、その富はまずジェノバ、ヴェネツィア、アマルフィなどの海洋交易国家の商業活動によって生まれ、次いでフィレンツェの毛織物業、そして両替・銀行業によってもたらされました。こうした都市国家の存在は中部・北部イタリアに特徴的であり、ナポリ以南のイタリアには封建制が残ったために、ルネッサンスの発展にはほとんど寄与する事がありませんでした。しかし15世紀後半からフランス、イングランド、スペインに統一国家が成立するとその規模が物をいうようになり、イタリアはこれらの大国に翻弄され、イタリアのルネッサンスは終焉を迎えます。一方フランス、スペイン、イングランドではむしろその後にルネッサンスの最盛期を迎える事になります。このようにそれぞれの国においてルネッサンスの始まりと終わりの時期は異なっており、最も早いと考えられるイタリアでは1266年から1530年までと考えるのが妥当だろうという事でした。

 

ともかく博識で次から次へとエピソードが頻出する西本先生のお話は面白く、あっという間の90分間でした。今回とはまた別の切り口でのルネッサンス論を聞いてみたい気もします。西本先生、ありがとうございました。(橋都)