二大政党連合から二大政党へ -イタリア2008年総選挙-(概要)

第338回例会(2008年6月20日)

演題:二大政党連合から二大政党へ -イタリア2008年総選挙-

講師:後 房雄


 この後教授の講演を聴いた人は,選挙に対する見方がガラッと変わったのではないか。イタリアの選挙の話だと思っていたら,イタリアの選挙を通して見る選挙制度のあり方,特に日本の現状分析だった。先ず,比例代表制と小選挙区制の意味。「比例代表制選挙が最も民意を反映する」と思ったら大違い。比例代表制選挙では,小政党でも幾ばくかの議席を得られ,政党の乱立になり易い。単独過半数を取る政党がない場合,選挙後に連立を組んで政権を握るために,往々にして公約と程遠い妥協が,選挙民のあずかり知らぬ所でなされる。いっぽう小選挙区制では,一党で過半数を取れそうもないときには,最大の支持率を得られる連立を組めば選挙に勝てる。選挙前に連立を決め,マニフェストを掲げて選挙を行うことは,選挙民にとっても安心して投票できることになる。政党乱立による政情不安定と選挙後の妥協の連立政権の弊害から,イタリアは1993年に小選挙区制を取り入れた。選挙に勝つためだけの連立が行われ,4回の選挙で右派と左派が2勝ずつを挙げた。そして今年のイタリアの選挙は,ベルルスコーニの中道右派連合が,中道左派連合から政権を奪い返した。ところが1994年に,憲法を変えるために,不完全ではあるが小選挙区制を取り入れた日本では,自民党が悲願の3分の2議席を得ることはなかった。その後の紆余曲折の中で,連立さえ組めば野党が勝てると分かっていながら,勝つための連立を組んだのは自民党で,結果として4連勝を成し遂げた。日本共産党が,勝つことのない全ての小選挙区に候補を立てていたことは,自民党を支えることに外ならなかった。その後2005年にイタリアの選挙制度が変更され「小選挙区制から比例代表制に逆戻りした」と日本のマスコミは報道したが,第一党が全議席の約54%を得るというもので,比例代表制のように見える小選挙区制である。連立で政権を取れることを良く理解して,大連立を繰り返して来たイタリア諸政党だが,ここに来てその弊害を避けるために,連立よりも「単独政党で政権を取ろうとする」動きが出てきている。それが本日の演題「二大政党連合から二大政党へ -イタリア2008年総選挙-」の意味するところであった。(佐久間)