2015年 講演会レポート

文学作品が描く「移民」の今昔 (概要)

12月例会(426回)

・日時:2015年12月8日(火)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:栗原俊秀氏 (京都造形芸術大学非常勤講師)

・演題:文学作品が描く「移民」の今昔

去る12月8日、イタリア研究会第426回例会が開かれました。講師は京都芸術造形大学非常勤講師の栗原俊秀さん、演題名は「文学作品が描く『移民』の今昔」でした。
かつてイタリアは移民の送り出し大国で、アメリカ合衆国、アルゼンチンを中心に19世紀から20世紀にかけて、2000万人以上が移住したと考えられています。彼らは差別に悩み苦しみながら、自分達の居場所を確保して行ったのです。とうぜん彼らの中から、独自のアイデンティティを持った移民文学が生み出さ れました。その代表が1909年にデンバーで生まれたジョン・ファンテでしょう。彼の小説には差別を受けながら成長して行くイタリア系移民の子どもたちの姿がユーモアとペーソスを伴って描かれています。栗原さんが今年翻訳して出版した彼の小説「バンディーニ家よ春を待て」はその代表作です。
栗原さんはさらに現代のイタリアにおける移民文学の例として、イタリア語とアラビア語とで創作を行う特異な作家であるアルジェリア系イタリア人アマーラ・ラクース、イタリアの旧植民地エリトリアからの移住者いわば引き揚げ者であるエルミニア・デローロ、さらには500年前にオスマントルコの支配を逃れてアルバニアからイタリアに移住し、いまだに独自の言語とコミュニティを守り続けているアルブレッシュの作家カルミネ・アバーテを紹介し、僕たちの知らない移民文学の拡がりを示してくれました。アメリカにおけるイタリア系移民による移民文学だけを念頭に置いていた僕たちには、新鮮な驚きでした。栗原さんありがとうございました。(橋都)

カンツォーネ・ナポレターナの特徴と歴史 (概要)

11月例会(425回) 

・日時:2015年11月12日(木)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:青木純氏(カンツォーネ歌手)

・演題:カンツォーネ・ナポレターナの特徴と歴史

 
 イタリア研究会第425回例会が開かれました。講師はカンツォーネ・ナポレターナ歌手でその歴史の研究と訳詩も手掛けている青木純さんです。
青木さんはもともとクラシックの歌手で、音大卒業後にミラノに留学しましたが、カンツォーネ・ナポレターナに魅せられ、在伊中から勉強を開始して帰国後も歌手として活躍しています。カンツォーネ・ナポレターナの歴史は13世紀まで遡ることができ、ナポリという街の国際性と高度な音楽の伝統との影響から、他の街にはない特徴を持つに至りました。その特徴とは、明るさと切なさとを併せ持った美しいメロディー、高度な音楽性、恋愛・仕事・望郷・諧謔などさまざまなテーマが含まれていることです。青木さんはギターの弾き語りで、次々と代表的なカンツォーネ・ナポレターナをご自分の訳詩で歌ってくれましたが、オペラのベル・カントとは異なるベッラ・ヴォーチェという繊細で情感の溢れる歌いぶりは参加者を魅了しました。
懇親会でも話が尽きなかったのですが、最後にカンツォーネ・ナポレターナの名曲「遙かなるサンタ・ルチア」を披露してくれたのですが、この名唱には全員が聞き惚れ、歌い終えたときには拍手とブラーボの声が止みませんでした。青木さんありがとうございました。(橋都)


アルゼンチンのイタリア人−マローネとヴィタ=フィンツィ(概要)

10 月例会(424回)
・日時:2015年10月30日(金)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4F大会議室
・講師:土肥秀行氏(立命館大学文学部准教授)
・演題:アルゼンチンのイタリア人―マローネとヴィタ=フィンツィ

イタリア研究会第424回例会が開かれました。講師は立命館大学文学部准教授の土肥秀行さん、演題名は「アルゼンチンのイタリア人−マローネとヴィタ=フィンツィ」でした。
僕たちがイタリアとアルゼンチンとの関係を最初に知るのは「母をたずねて三千里」のマルコ少年の行動によってではないかと思います。じっさいアルゼンチンにはスペイン系住民の数よりもイタリア系住民の数の方が多いのだそうです。土肥さんは、その中でゲラルド・マローネとパオロ・ヴィタ=フィンツィとくに前者を中心に話をされました。父親がブエノスアイレス大学の教授であったマローネはこの地で生まれ、ナポリの高校、大学で学びました。下井春吉とも関係が深くナポリの文壇に留まらず全国的に名声を得ていましたが、反ファシストを貫きブエノスアイレスに戻りました。そして戦後、訪問先のナポリで客死しています。
土肥さんは、アルゼンチンにおいてイタリア系がマイノリティではないために、逆にアイデンティティを保ちにくいこと、イタリア語とスペイン語との近縁性から、あえて学ばなくてもある程度は理解できることから、イタリア語教育が必ずしも盛んではないことを指摘し、そうした文化的背景の中での、イタリア系文化人の立場の難しさを語ってくれました。また19世紀から20世紀にかけて経済的に発展し、現在は経済が停滞しているために保存されているブエノスアイレスの街の独特の魅力についても話をされました。
僕たちが知らなかったイタリアとアルゼンチンとの関係について、参加者は目を開かれたことと思います。土肥さん、ありがとうございました。(橋都)

アルゼンチンのイタリア人-マローネとヴィタ=フィンツィ(講演記録)

第424回イタリア研究会例会 2015-10-30
報告者:土肥秀行(立命館大学文学部准教授)
「アルゼンチンのイタリア人-マローネとヴィタ=フィンツィ」

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イタリアの飲食事情(概要)

9月例会(423回)

・日時:2015年9月29日(火)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:坂田肇氏(イタリアワイン研究家・スローフード協会会員)

・演題:イタリアの飲食事情

イタリア研究会第423回例会が開かれました。演題名は「イタリアの飲食事情」、講師はオフィス坂田代表で、横浜でイタリアン・ワインバー「狸の洞窟」とスタジオ「カンティナ」を運営し、各地でイタリアワインのセミナー講師を務めている坂田肇さんです。坂田さんは「スローフード」のもっとも古い日本人会員のお一人でもあります。
坂田さんは1980年代から、レンタカーでイタリア全土を駆け回り、300箇所以上のワイナリーを訪問したという経験から、イタリアの食事情、ワイン事情を語ってくれました。イタリアではこれまで各家庭のマンマの料理が最高で、それが母から娘へと伝わって行くという伝統があったのですが、共稼ぎが増えた、娘が早くに家庭を離れるようになった、昼食に割くことのできる時間が短くなった、といった理由からファストフードが増え、子どもたちの味覚異常が増加してきているということです。それに対する危機感から始まったのが「スローフード」運動で、現在イタリアの飲食事情に大きな影響を与えています。
坂田さんの豊富な経験に基づく、ごく最近にも知り合いのワイナリーで、これまで知られていなかった葡萄の品種が発見された話、世界バリスタコンテストにおける日本チームの活躍の話などは、多くの聴衆に印象を与えたことでしょう。坂田さんありがとうございました。(橋都)

ベルカントからヴェルディへ−21世紀のヴェルディ歌手たち (概要)

8月例会(422回)

・日時:2015年8月6日(木)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:加藤浩子氏(音楽評論家)

・演題:ベルカントからヴェルディへ−21世紀のヴェルディ歌手たち

 

第422回イタリア研究会例会が開かれました。講師は音楽評論家の加藤浩子さん、演題名は「ベルカントからヴェルディへ—21世紀のヴェルディ歌手たち」でした。
われわれがイメージするヴェルディ歌手は、声量があり重厚な表現を得意とする歌手たちです。しかしこうした歌手はじつはヴェルディよりも後の時代のヴェリズモ。オペラを得意として、そこからヴェルディを歌うようになった例が多いのです。こうした歌手の活躍により、1970年代までがイタリアオペラとくにヴェルディ。オペラの黄金時代といわれてきました。しかしヴェルディのオペラが初演された時には、ヴェリズモ歌手はもちろんヴェルディ歌手もいなかったわけです。ではどんな歌手が歌ったのかといえば、当時の人気演目であったロッシーニ歌いがヴェルディを歌ったわけです。
しかし最近ヴェルディの上演にも新しい潮流が生まれています。それには1980年以降のロッシーニ。ルネッサンスとオーケストラにおけるピリオド楽器、ピリオド奏法の興隆が大きく影響しています。加藤さんはDVDやCDを駆使して、新しいヴェルディの演奏、歌唱がどのようなものかを示してくれました。とくに注目すべき歌手としてテノールのグレゴリー。クンデとメッゾ。ソプラノのダニエラ。バルチェッローナを挙げられましたが、彼らの歌唱は非常に清新で、われわれのヴェルディのイメージを良い意味で覆すものです。これから新しいヴェルディ。オペラの魅力が現れてくるのかもしれません。ただ、講演後の質問に対する答えでも明らかになったように、残念ながらバリトンに人材が不足しているという事です。
加藤さん、興味あるお話をありがとうございました。(橋都)

 

フリードリッヒ2世の十字軍(講演記録)

第421回 イタリア研究会 2015-7-9

フリードリッヒ2世の十字軍

報告者:高山博(東京大学教授)

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フリードリッヒ2世の十字軍(概要)

7月例会(421回)

・日時:2015年7月9日(木)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:高山博氏(東京大学教授)

・演題:「フリードリッヒ2世の十字軍」

 

イタリア研究会第421回例会が開かれました。講師は東京大学大学院西洋史学科教授の高山博先生、演題名は「フリードリッヒ2世の十字軍」です。
13世紀のシチリア王フェデリーコ2世は、一般的には神聖ローマ皇帝フリードリッヒ2世として知られていますが、パレルモの多文化的な文化圏で育てられたために、当時のキリスト教文明の枠組みには入りきらないような人物でした。彼は十字軍遠征に行くという教皇との約束を守らなかったために破門を受けながらも、それまでの十字軍のような異教徒の殺戮による聖地奪回をよしとはしませんでした。エジプトのスルタン、アル・カミールとの度重なる粘り強い交渉によって、戦いなしに聖地エルサレムの奪回に成功したのです。しかしこれはキリスト教と、イスラム教徒双方から歓迎されず、両教徒の平和共存は10年間しか続かなかったのです。
このいわゆる「無血十字軍」は、われわれに多くのことを教えてくれます。歴史を世界各地の文明の衝突として捉えるだけでは、本当の歴史が見えては来ないこと、歴史を世界全体の人類の動きからグローバル・ヒストリーとして捉えることが、このグローバル化の21世紀において必要であることです。13世紀の一人の君主の行動がわれわれにとっても偉大な教訓となることを、この高山先生の講演は教えてくれました。講演後の質問の中でも、「十字軍国家は国家だったのか?」「それでは国家とは何なのか?」「そもそも十字軍の真の目的とは何だったのか?」など興味深い質問と高山先生の的確な回答により、会場は大いに盛り上がりました。高山先生、ありがとうございました。(橋都)

 

旅するロードレース(概要)

6月例会(420回)

・日時:2015年6月23日(火)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:宮澤崇史氏 (イタリアでもご活躍の自転車ロードレーサー)

・演題:「旅するロードレース」


例会の講師は、イタリアでも活躍し、2014年に引退したプロ・ロードレーサーの宮澤崇史さんでした。宮澤さんは高校卒業後すぐにイタリアに渡り、プロを目指して自転車競技の修行を開始しました。その後にイタリア、フランス、日本でプロとして活躍し、日本チャンピオン、アジアチャンピオンにもなっています。
イタリアではレースに出場しながら語学学校にも通ったものの、成果はなく、チームメートとの会話でイタリア語を習得したそうです。またイタリアでは資金不足によるチームの空中分解も体験したそうですが、フランスよりもイタリアがお好きだということです。宮澤さんはプロとしてのキャリアの最後に近くなって、サクソバンクという世界の超一流のチームと契約し、生活にも余裕ができた結果、イタリアのワイン、オリーブオイル、コーヒーに興味が湧いてきたそうです。そして現在は日本とイタリア、そして自転車を結びつけるような仕事をやりたいと考えてているということでした。
自転車競技に関しては、自転車競技はヨーロッパの文化と地域に根ざして発展してきているので、ヨーロッパからチームや選手をアジア、日本に呼んできても、それだけではヨーロッパと同じ自転車レースにはならない、本当の自転車レースを体験するためには、ヨーロッパに行く以外はない、と強調されていたのが印象的でした。
懇親会でも、いつまでもイタリアの話、自転車の話が尽きませんでした。宮澤さん、ありがとうございました。(橋都)

旅するロードレース(講演記録)

第420回 イタリア研究会 2015-6-23

旅するロードレース

報告者:宮澤 崇史 (自転車ロードレーサー) 

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イタリアと日本の服の違い(概要)

5月例会(419回)

・日時:2015年5月25日(月)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:船橋幸彦氏 在伊経験35年のサルト(洋服職人)

・演題:イタリアと日本の服の違い


イタリア研究会第419回例会が行われました。
講師は在伊33年の経験を持つサルトである船橋幸彦さん、演題名は「イタリアと日本の服の違い」でした。
長崎の洋服店に生まれた船橋さんは、高校時代から洋服作りの本場であるイタリアでの修行に憧れていました。そして東京、ロンドンでの修行の後に、ローマに渡りましたが、そこで見た洋服作りは、日本や英国におけるものとは大きく異なっていました。イタリアではまだ工業化が行われておらず、職人の数も多かったために、洋服作りは基本的に手縫いで行われていたのです。
その後に労働者保護のための法律が災いして、職人の数が激減してイタリアでも機械縫いが主流となりましたが、手縫いの味を残した洋服作りが現在まで続いています。そうした伝統のなかでの試行錯誤から船橋さんは、首の後の部分に支点を持ち、前後左右にバランスの取れた洋服という「やじろべえ理論」に到達し、特許を取得しました。会場では実際に聴衆のひとりがモデルとなり、この理論に基づいて洋服に修正を加えると、目に見えて身体へのフィットが向上し、着ている本人の快適さも増強するという魔法のようなテクニックを披露してくれました。
船橋さんは現在、この理論がより広く応用できるように、3Dカメラを用いた型紙製造技術に取り組んでいるそうです。早くわれわれもその恩恵に与って、美しく快適な洋服を着ることができるようになって欲しいものです。船橋さん、興味深いお話をありがとうございました。(橋都)


100%幸せですか?明るく生きる天才イタリア人の秘密(概要)

第418回例会

・日時:2015年4月18日(土)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:関マリアンジェラ(ピアニスト関孝弘氏夫人、東京音楽大学講師)

・演題:100%幸せですか?明るく生きる天才イタリア人の秘密

 

4月18日(土)にイタリア研究会第418回例会が開かれました。今回の講師はピアニスト関孝弘さんの奥さまのマリアンジェラ・ラーゴさん、演題は「100%幸せですか?明るく生きる天才イタリア人の秘密」です。
マリアンジェラさんはイタリアに生まれ、イタリアで教育を受け、関さんと結婚して日本に暮らして、子どもさん2人を日本の学校で教育を受けさせた経験をお持ちです。その体験から、イタリア人と日本人の基本的な考え方の違い、イタリアと日本の教育方針の違い、そしてそれによる幸福観の違いを、熱のこもった口調で語ってくれました。とくに教育について、イタリアでは教えすぎない教育、褒める教育、待つ教育、体験させる教育が徹底しており、それによって個々の子どもの個性が育ち、日本人とイタリア人の人生に対する満足度が違ってくるのではないかと述べました。
そして幸福とは悩みや不満がないことではなく、自分自身の人生を自分が選んで送れているという感覚が重要であり、そのためには周囲に迎合しないで、自分を大事にして、自分が本当にやりたい事をやるのが大切であることを強調しました。そして日本人の若者の中に、生まれ変わったら日本人以外になりたいと考える人が多いことに危機感を覚えて、今年「ブリランテな日々」晶文社刊という本を出版しました。この本の中には、今回の講演のような幸せになるための知恵がたくさん込められていると共に、日伊比較文化論にもなっています。その知恵を日本に広めるべく、ご主人の関孝弘さんと共に、積極的に広報活動を行っているところです。
例会直前に喉を痛めて、点滴を受けて公演に備えたというマリアンジェラさんの熱意に惹かれ、例会終了後の懇親会には最近では見られなかったほどの会員、非会員が集まりました。マリアンジェラさん、ありがとうございました。(橋都)

100%幸せですか?明るく生きる天才イタリア人の秘密(講演記録)

第418回 イタリア研究会 2015-4-18

100%幸せですか?明るく生きる天才イタリア人の秘密

報告者:関マリアンジェラ (ピアニスト関孝弘氏夫人、東京音楽大学講師)


 

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グエルチーノとイタリア・バロック美術(概要)

第417回例会

・日時:2015年3月16日(月)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:渡辺 晋輔 国立西洋美術館主任研究員

・演題:グエルチーノとイタリア・バロック美術


イタリア研究会第417回例会が開かれました。 現在、国立西洋美術館で「グエルチーノ展」が開かれているのに合わせ、この展覧会を企画した国立西洋美術館主任研究員の渡辺晋輔さんに「グエルチーノとイタリア・バロック美術」という題名でのお話しをお願いしました。 渡辺さんは、日本人の美術におけるブランド志向のため、この展覧会は入場者数では苦戦しているが、国立の美術館には、単に人気のある画家の作品だけではなく、知られざる重要な画家を紹介する使命があるという事から話を始めました。そしてグエルチーノの故郷で、多数の作品を収蔵しているチェント市の美術館が3年前に地震の被害に遭い、展示が不可能になったことからこの展覧会が実現し、展覧会の収益は、美術館の修復に当てられることを強調しました。 グエルチーノは17世紀、対抗宗教改革のまっただ中に、その理念を具現化した画家のひとりです。若い頃には故郷のチェント、その後に短期間ローマで活躍したこともありましたが、活躍期間のほとんどをボローニャで過ごしました。そのために日本での知名度は低いのですが、17世紀、18世紀には高い評価を得た才能のある画家です。初期にはまさにバロックというスタイルの絵を描いていましたが、後期には古典主義的なスタイルへと変わっています。 渡辺さんは、グエルチーノの絵そのものが面白いだけではなく、彼を中心として同時期の他の画家たちの作品と比較して、お互いの影響を考えることによって、イタリア・バロック絵画全体が見えてくることを示しました。渡辺さんのお話は、いつもながら内容が高度にもかかわらず、大変分かりやすく、聴衆もじっと聴き入っていました。「グエルチーノ展」は5月31日まで開かれています。(橋都)

地中海式ダイエットと和食への影響(概要)

第416回例会

・日時:2015年2月21日(土)15:00-17:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:佐々木巌 ウエルネスササキクリニック院長

・演題:地中海式ダイエットと和食への影響

 

イタリア研究会第416回例会が行われました。演題名は「地中海式ダイエットと和食への影響」、講師はウエルネスササキクリニック院長・佐々木巌先生でした。
佐々木先生は、糖尿病、生活習慣病の治療に地中海式ダイエットを取り入れ、大きな成果を上げています。地中海式ダイエットとは、1960年代初めの南部イタリア、クレタ島の食生活を再構成したもので、その基本は穀物中心の食事、蛋白源は肉ではなく魚介類、調理オイルはバターではなくオリーブオイル、食事に際して主に赤ワインを摂取するというスタイルです。佐々木先生は、地中海式ダイエットの最大の特徴は、何かを我慢するという食事法ではなく、好きなものを食べながら健康な食事摂取ができるという点にあることを強調されました。そしてこの地中海式ダイエットが、心筋梗塞、がん、糖尿病、メタボリック症候群、アルツハイマー病などの神経疾患、アレルギー疾患の予防効果があること、自分でスコアを付けることによって、みずからの食事の地中海度をチェックすることに意味があることを示されました。
実際に患者さんの治療、指導に地中海式ダイエットを活用されている佐々木先生のお話は、内容が高度であるにもかかわらず、とても分かりやすく、参加した皆さんにとって得るところが多かったのではないかと思います。佐々木先生ありがとうございました。(橋都)


「自由主義イタリア」 l’Italia liberaleについて(概要)

第415回例会

・日時:2015年1月28日(水)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4F大会議室

・講師:馬場 康雄(東京大学名誉教授  NPO法人「川崎市民アカデミー」副会長)

・演題:「自由主義イタリア」 l’Italia liberaleについて

 

イタリア研究会第415回例会が行われました。今回の演題は「自由主義イタリア(l’Italia Liberale)について」、講師は東京大学名誉教授でNPO法人「川崎市民アカデミー」副会長の馬場康雄氏です。
自由主義イタリアとは、一般的にリソルジメントとファシズムとにはさまれた時代を指しますが、リソルジメントが第1次世界大戦まで続いたという考えもありますので、おおよそ1860年代から1922年までの期間と考えれば良いでしょう.馬場さんは、学生時代の篠原一教授のヨーロッパ政治史の講義からヨーロッパ政治史とくにイタリア政治史に興味を持ちました。そしてイタリアに留学してイタリアにおける政治史研究の偏りに気付き、自分なりの視点を見つけることに留意しつつイタリア政治史とくに特異な政治家ジョリッティの研究を続けてきました。
馬場さんが強調されたのは、イタリアの政治を考えるのにイタリアの特異性にだけ注目するのではなく、ヨーロッパ全体の中での位置づけに注意を支払うべきこと、政治史とくに日本に輸入される政治史はときに過剰に“党派的”であるので、それに囚われすぎないこと、という点でした。これは日本の政治を考える上でも、非常に重要な点ではないかと考えられます。馬場先生、貴重な講義をありがとうございました。(橋都)