2009年 講演会レポート

イタリアチーズ、歴史とロマン(概要)

第355回例会(2009年12月8日火)19:00-21:00

演題:イタリアチーズ、歴史とロマン

講師:本間 るみ子 輸入ナチュラルチーズ専門店フェルミエ株式会社社長

会場:南青山会館2F会議室


 本間さんは日本におけるチーズ受容の歴史も交えながら、北から南へとDOPチーズの産地をたどりながら、その製法、生活や料理との関わりを楽しく語ってくれました。イタリアにおけるチーズの生産はやはりアルプスに近い北部が中心であり、さらに生産量だけではなく、南部では全く系統が異なり、原料や製法も北部とは大きく異なるチーズが多いことが分かり、イタリアの南北における文化の違いがチーズにまで及んでいることがよく分かりました。 講演後には会員からチーズの歴史、経済的意義から保存法までさまざまな質問が飛び交い、活発な例会となりました。懇親会は近くの「トラットリア・イタリア」で行われ、幹事を担当した川井、市来両運営委員の奮闘により、参加者はチーズ料理とおいしいワインをたっぷりと味わうことができました。 (橋都)

近代科学の父・ガリレオの業績:天文学を中心として(概要)

第354回例会(2009年11月20日金)

演題:近代科学の父・ガリレオの業績:天文学を中心として

講師:表 實(慶応大学名誉教授、東北公益文科大学副学長) 

会場:南青山会館2階会議室


 今年が世界天文年であることにちなみ、慶応大学名誉教授、東北公益文科大学副学長の表實先生に天文学の話をして戴きました。ガリレオは1609年に人類史上初めて、望遠鏡を用いた天体観測を行い、数々の偉大な発見をもたらしました。彼は近代天文学の創始者であるばかりではなく、観測と実験とに基づく理論の構築を目指したという点で、まさに近代科学の父ということができます。表先生は400年前にガリレオによって可視光線領域での観測からスタートした天文学が、スペクトラム解析、電磁波天文学へと進歩し、さらに現在ではニュートリノ天文学にまで広がっていること、将来は重力波天文学が現れるだろうという、壮大な天文学の歩みを分かりやすく解説してくださいました。講演後には、多くの聴衆から、さまざまなレベルの高い質問が続出。久しぶりの科学分野での講演でしたが、会員のこの領域に対する意識の高さがよく分かった例会だったと思います。(橋都)

イタリアでの発掘40年(概要)

第353回例会(2009年10月27日火)

演題:イタリアでの発掘40年

講師:青柳 正規(国立美術館理事長、国立西洋美術館長、東大名誉教授) 

会場:南青山会館2階会議室


 第353回イタリア研究会例会が行われました。講師は独立行政法人・国立美術館理事長、国立西洋美術館長、東京大学名誉教授である青柳正規先生です。演題は「イタリアでの発掘40年」。先生は1967年に東大文学部美術史学科を卒業してまもなく、ローマ大学に留学され、1974年からイタリア各地で発掘調査を行ってこられました。2002年からはソンマ・ヴェスヴィアーナのいわゆる「アウグストゥスの別荘」の発掘を行い、すばらしい大理石彫刻2体を発掘されたことは皆様よくご存じと思います。40年にわたる実地での発掘に基づく先生のお話は、実に生き生きとしておりまた深い内容を伴うもので、聴衆一同おもわず聴き入ってしまいました。講演終了後にはさまざまな角度からの質問が飛び交い、あっという間に時間が経ってしまいました。懇親会にも多くの会員が参加して、店の閉店時間まで熱くイタリアについて語り合いました。(橋都)

イタリア都市の諸相―中世シエナの都市計画(概要)

第352回例会(2009年9月17日木)

演題:イタリア都市の諸相―中世シエナの都市計画

講師:野口 昌夫氏(東京藝術大学美術学部建築科教授) 

会場:南青山会館2階会議室


 9月17日(木)にイタリア研究会第352回例会が開かれました。講師は野口昌夫氏(東京藝術大学美術学部建築科教授・工学博士)。演題名は「イタリア都市の諸相―中世シエナの都市計画」です。世界でももっとも美しい都市の一つであるシエナ.そして世界でもっとも美しい広場であるカンポ広場,その成り立ちと構造を野口先生は多数の美しいスライドと図面とで示してくださいました.3つの尾根がぶつかるところに成立したという地形的な制約を生かしながら,街が出来上がったところにシエナの街の美しさの原点があること,そして広場を劇的に見せるさまざまな仕掛けが存在することが,われわれにも良く理解できました。それに較べるといささか奇妙にも感じられる,未完に終わった大聖堂の改造計画についても,現場の写真と図面とを対照させながらのお話はきわめて興味深いものでした。時間の関係で質問の時間がなくなってしまいましたが,その後の懇親会には予想以上の人が集まり,時間も忘れてシエナのそしてイタリアの都市の美しさについての議論が続きました。野口先生,本当にありがとうございました。 (橋都)

銅版画家としてのピラネージ(概要)

第351回例会(2009年8月31日月)

演題:銅版画家としてのピラネージ

講師:佐川 美智子氏 (町田市立国際版画美術館学芸員)

会場:東京文化会館4F大会議室


 8日31日第351回のイタリア研究会例会が開かれました。折からの台風接近の中,参加を取りやめた方もおられたようですが,熱心な参加者が集まりました。講師は町田市立国際版画美術館学芸員の佐川美智子さん,テーマは「銅版画家としてのピラネージ」です。佐川さんは版画とは何か,銅版画の種類,といった基本から話をされた上で,エッチング画家としてのピラネージの魅力について語られました。同じローマの風景であっても,凡庸な画家による同じ場所の風景がピラネージの手にかかるとまったく違った魅力あるものに変貌することを実際の銅版画を使って示してくれました。こうしてピラネージの銅版画は,美術界だけではなく,文学の世界においても多くの影響を与え続け,またピラネージの死後にもプリントされ続けることにもなったのです。今回のお話で銅版画に興味をもたれた方も多かったのではないでしょうか。現在,町田市立銅版画美術館では「版画がつくる驚異の部屋へようこそ!展」が開かれています。ぜひお出かけ下さい。(橋都)

イタリアの格差社会(概要)

第350回例会(2009年7月23日)

演題:イタリアの格差社会

講師:石橋 典子 翻訳家

会場:東京文化会館


 7月23日(木)に第350回のイタリア研究会例会が行われました。講師はミラノ在住の翻訳家、石橋典子さん、演題名は「イタリアの格差社会」です。もともとイタリアはヨーロッパの中でも格差が著明な国といわれていますが、最近はその格差がますますひどくなっているといわれています。石橋さんは、永年のイタリア在住の経験に基づき、またさまざまなデータを示しながら、イタリアの格差についてお話をしてくださいました。また最近のイタリアにおける格差の拡大にベルルスコーニ政権が果たした役割が非常に大きいことも指摘されました。ドイツの社会科学者マックス・ウェーバーには「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という名著があります。イタリアはもちろんカトリックの国であり、その意味で北ヨーロッパのような資本主義は発達しておらず、イタリアの資本主義はカトリック的資本主義である、という指摘には,なるほどと思わされました。(この報告は会員の中村正董さんによるまとめを参考にしています:橋都)

イタリア現代詩を読み解く3つの鍵(概要)

第349回例会(2009年6月25日)

演題:イタリア現代詩を読み解く3つの鍵

講師:辻昌宏 明治大学教授

会場:南青山会館


 6月25日,イタリア研究会第349回の例会が行われました。演題は「イタリア現代詩を読み解く3つの鍵」,講師はイタリア文学,英文学研究者である明治大学教授の辻昌宏先生です。いささか難しそうな題名に恐れをなしたのか,いつもより聴衆が少なめでしたが,辻先生のお話は非常におもしろく分かりやすく,また示唆に富んでおり,出席された方々は得をした気持ちになったのではないかと思います。イタリア現代詩を読み解く3つの鍵とは1.詩人の居場所,2.定型詩,3.キリスト教的世界観です。世界における自分の居場所の無さ,韻や一行の長さといった詩の形を守っているかどうか,キリスト教的世界観もしくはそれに代わる世界観を持っているかどうか,この3つの点に注目して現代詩を読むと,見えてくるものが沢山あるというのがポイントです。最後にヴァルドゥーガという女性詩人の超絶技巧的しかも肉体感覚に根ざした詩が紹介され,講演は終わりました。講演後には,詩と散文との違いはどこにあるのか,韻を踏まなくなったのは意図的なのか,やむを得ずなのか,ダンヌンツィオの現代における評価などさまざまな質問が続出しました。辻先生は「イタリア現代詩の部屋」というブログで精力的にイタリア現代詩の翻訳を続けておられます.ぜひ覗いてみてください。 (橋都)

究極の宴,バンケットへようこそ:ルネッサンスイタリア宮廷の饗宴(概要)

第348回例会(2009年5月16日)

演題:究極の宴,バンケットへようこそ:ルネッサンスイタリア宮廷の饗宴

講師:弥勒 忠史

会場:南青山会館


 5月16日に行われたイタリア研究会第348回の例会は,カウンターテナー歌手弥勒忠史さんによる「究極の宴,バンケットへようこそ:ルネッサンスイタリア宮廷の饗宴」という講演でした。弥勒さんはまずご自身が歌われた「愛しアマリリ」のCDをかけ,カウンターテナーの声の美しさで聴衆の度肝を抜いてから講演を始めました.まずなぜ声楽家である自分がルネッサンス宮廷のバンケットなどというものの研究を始めたか,そしてイタリア留学中に「Saint Stomach(聖胃袋)」とあだ名を付けられたというグルマンぶりを彷彿とさせる,当時のバンケットで供された料理の数々の話,そしてバンケットの重要な出し物である音楽の話へと進みました。最後にはわれわれがイタリア貴族のバンケットに招待されても恥をかかないようにと,当時の舞踏の一つであるパヴァーヌのステップを実習して講演は終わりました。参加されたみなさまは,当時のバンケットが単なる宴会ではなく,一大パーフォーマンスであったことに感銘を受けるとともに,バンケットで供された料理の豪華さと量とに驚嘆して,現代イタリア料理の源を再認識されたのではないかと思います。(橋都)

画祭を通して見た現在のイタリア映画(概要)

第347回例会(2009年4月17日)

演題:画祭を通して見た現在のイタリア映画

講師:岡本 太郎

会場:東京文化会館4F大会議室


 岡本太郎氏(ライター)は2001年の第1回イタリア映画祭以来,ゴールデンウイークの定番となったイタリア映画祭の作品選定に携わっておられます。そのお話「映画祭を通して見た現在のイタリア映画」はその経験を生かした実に興味深くまた幅広いものでした。フェリーニ,ヴィスコンティ,パゾリーニ,アントニオーニらの巨匠たちの後,80年代,90年代とやや低調であったイタリア映画が,若い監督たちの登場によって活気づいている状況を生き生きと描写され,みなさんイタリア映画祭への期待がいやが上にも高まったのではないかと思います。今年の映画祭で上映される12作品はいずれも現在のイタリア映画の現状を映し出す素晴らしい作品揃いのようです,ご期待ください。イタリア映画祭についての情報は下記のURLをご覧ください。(橋都)

http://www.asahi.com/event/it09/

イタリアの歌劇場と音楽史跡(概要)

第346回例会(2009年2月25日)

演題:イタリアの歌劇場と音楽史跡

講師:牧野 宣彦

会場:東京文化会館4F大会議室


 牧野さんはオペラを見るために1998年からイタリアに住み始め、現在もイタリアと日本を往復しています。オペラを見るのに最も適 している場所が、イタリアのほぼ中央に位置するボローニャです。イタリアが統一される前、スペイン、フランス、オーストリアなどの外国の勢力によって国土は支配されていました。そして、為政者たちは、一つは民衆の高まるエネルギーを沈静化させるために、また己の権力と富を示すためにオペラ劇場を建設しました。その為イタリア各地に美しい歌劇場が点在しています。それらのイタリアの歌劇場とイタリアの音楽史跡を写真で紹介し、牧野さんとオペラとの出会いや劇場での思い出などを話していただきました。(橋都

イタリアの幸せになるインテリア(概要)

第345回例会(2009年1月28日)

演題:イタリアの幸せになるインテリア

講師:戸倉 容子

会場:上野 東京文化会館4F大会議室


 幼少時から「人を幸せにする仕事をしたい」との希望を抱きこれを具現すべく病院のナースになったが、その仕事を通して「人間は環境で生き方が変わる。豊な環境を通して人を幸せにしよう」との考えを持つに至り、インテリアコーディネー会社を起業、98年建築デザインを学ぶべくミラノに留学、世界的に著名な建築家であるパオロ・ナーバ氏に師事した。イタリアに滞在中多くの街々を訪ね、個人の住まいや街全体に見られる個性溢れる建築空間とそこに集い人生を大いに謳歌する人々に深い感銘を受けた。ここから「家は大切な人との一瞬一瞬を楽しく豊かに生きるための舞台。家を手段としその人の人生を輝かせたい」、「人間が生まれてから最後に死ぬまでTOTALで幸せを感じる環境を提供したい」などを基本的なコンセプトとして、豊なライフスタイルを実現すために「回廊の家」、「中庭を有するマンション」、「路地を持ったマンション」などなど、数多くの企画を提案し、実行している。

 「イタリアの幸せになるインテリア」の底流には以下8つの法則が見出されるが、そこには「人生を楽しみながらデザインして行こう」「自分が今日どう生きるか毎日を楽しむためにインテリアを楽しもう」「家族の絆を強めよう」「先祖から子孫へ伝統を守りながらインテリアを作ろう(”命のリレー”)」と言ったしっかりしたコンセプトが存在している。

<8つの法則>

1. 玄関はムーディに

2. キッチンはマンマの城

3. リビングは自己表現の場所

4. 夢はご一緒に...

5. 我が家だけのバスルーム

6. 外とつながるテラス

7. 帰るのが楽しくなるアプローチ

8. インテリアが街になる。

 冒頭華やかな音楽とともにイタリアの魅力溢れるシーンをふんだん取り入れたドムスデザインの素晴らしいビデオが上映され、思わず自らがイタリアに身を置いているような錯覚に捉われました。その後何れも豊かな感性とセンスを感じさせる100枚を超すインテリアや街作り写真を映しながら様々な企画・ご提案を具体的かつ生き生きとお話されましたが、これはほぼ満席の出席者を終始引き付けて放さず、2時間近くがあっと言う間でした。戸倉さん本当に有難うございました。(猪瀬)