2012年 講演会レポート

イタリアのホテル建築にまつわる歴史と文化(概要)

第390回例会

・日時:2012年12月7日(金)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:河村 英和 東京工業大学外国語教育センター

・演題:イタリアのホテル建築にまつわる歴史と文化


 12月7日,イタリア研究会第390回の例会が開かれました。演題は「イタリアのホテル建築にまつわる歴史と文化」です。講師はナポリのフェデリコ2世大学で建築史の博士号を取得された,東京工業大学外国語教育センターの河村英和(えわ)さんです。イタリアでは巡礼,後には英国貴族子弟たちのグランド・ツアーに対応するために,古くからホテルはありましたが,多くは他の住宅と区別のできない外観,規模のものでした。その後に外国旅行の習慣がブルジョワジーにも広がり,貴族の館や修道院がホテルに転用されるようになりました。しかしいわゆるグランド・ホテルがイタリアで建設されるようになったのは,1880年代以降で,他のヨーロッパ諸国よりも遅れていました。しかも,こうしたグランド・ホテルの多くはスイスのホテル業者の資本で建設され,運営も彼らによって行われていました。その後に,イタリアでも庶民の旅行,レジャーとしてのリゾート地の滞在が行われるようになり,ようやくイタリア資本によるイタリア様式のホテルが建設されるようになったのです。河村さんは,多数の写真を示しながら,こうしたイタリアにおけるホテルの変化の様子を,その名前の変遷とともに,詳しくまた分かりやすく示してくださいました。今後,イタリアに旅行する時には,教会やパラッツォだけではなく,ホテル建築にも注目するとさらに新しい興味がわいてくるのではないでしょうか。河村さん,ありがとうございました。(橋都)

ファシズム体制と『リーダーシップ』(概要)

第389回例会

・日時:2012年11月29日(木)19:00-21:00

・場所:南青山会館2階大会議室

・講師:石田 憲 千葉大学政経学部教授

・演題:ファシズム体制と『リーダーシップ』


 第389回のイタリア研究会例会が開かれました。講師は千葉大学政経学部教授の石田憲先生,演題は「ファシズム体制と『リーダーシップ』」です。決められない政治が続く日本では,ファシズムのイタリアを指導したムッソリーニを再評価しようという動きもあるようですが,はたしてトップダウンの政治がそれ程までに有効で魅力的なものなのか,石田先生はファシズム体制下のイタリアにおける政策決定,とくに外交政策の決定における問題点を,克明に指摘して下さいました。1830年代のイタリアでは,ムッソリーニの娘婿で小ムッソリーニと呼ばれたチアーノが外務省を牛耳っていましたが,とくに重要な案件については,ムッソリーニ自身が直接,決定を行っていました.その結果として,彼の思いつきに近いような対外政策が行われるようになり,外務省内にそれに対抗する勢力が存在しなかったわけではありませんが,次第に力を失ってしまいました。これは同じ時期の日本でも同様であって,外務省内での情報の収集と討議による対外政策の決定が行われなくなってしまい,正論を唱える外交官たちが力を失ってしまって,軍部の暴走をまねくことになりました。こうした歴史を考えると,「リーダーシップ」に期待するのではなく,正確な情報と外務省内部での討議による政策決定が,さまざまな困難な外交問題を抱える現在の日本においては何よりも重要であることを,石田先生は強調されました。質問では,同じような歴史をたどった日本とイタリアとの違いがどこにあるのか,現在の日本は,周辺諸国に対してどのように行動すべきか,など活発な意見の表明と議論が行われました。石田先生,貴重なご講演をありがとうございました。(橋都)

イタリア中世美術のたのしさ -シチリアと南イタリアの古寺をめぐる-(概要)

第388回例会

・日時:2012年10月25日(木)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:金沢 百枝 東海大学准教授

・演題:イタリア中世美術のたのしさ -シチリアと南イタリアの古寺をめぐる-


 イタリア研究会の第388回例会が開かれました。講師は新潮社・とんぼの本で,美しいイタリア古寺巡礼シリーズを出版されている東海大学文学部准教授の金沢百枝さんです。金沢さんは東京大学の理学部に入学して,植物学の研究をされて,その後に美術史に転向し,何と理学博士と文学博士の2つの博士号をお持ちという俊英です。ローマ帝国が滅亡した後のヨーロッパが,ローマ帝国から何を受け継いだのかという大きな問題意識から,ロマネスク美術を研究されています。昨日はパレルモの王宮礼拝堂のモザイクと,オトラントの教会の床モザイクを中心に,ロマネスク美術の起源がどこにあり,その魅力がどこにあるのかを熱く語って下さいました。とくに日本では,これまで中世は暗黒時代と考えられてきましたが,ロマネスク美術には,受け継いだ技術や様式を自在に自分のものとする自由闊達さと,遊び心があり,楽しいものであることが,参加した皆さまにはよく理解できたのではないかと思います。イタリアに行って見るべきものがまた増えたと思われた方も多かったのではないでしょうか。金沢さん,ありがとうございました。11月22日には同じとんぼの本から「イタリア古寺巡礼・シチリア→ナポリ」が出版されるということですので,楽しみです。 (橋都)

ナポリ銀行歴史文書館史料から浮かび上がる18世紀の音楽家たちの活躍と生活~モーツアルトが憧れたオペラの都の実情(概要)

第387回例会

・日時:2012年9月20日(木)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:山田 高誌 大阪大学大学院文学研究科

・演題:ナポリ銀行歴史文書館史料から浮かび上がる18世紀の音楽家たちの活躍と生活~モーツアルトが憧れたオペラの都の実情


 第387回イタリア研究会例会が開かれました。講師は音楽史の専門家である大阪大学大学院文学研究科芸術学講座助教の山田高誌さん,演題名は「ナポリ銀行歴史文書館資料から浮かび上がる18世紀の音楽家たちの活躍と生活ーモーツァルトが憧れたオペラの都の実情」でした。山田さんはたびたびイタリアに滞在して,ナポリ銀行歴史文書館の資料を分析して,そこから18世紀,19世紀のナポリにおけるオペラの実情を明らかにする研究を続けています.全部で2億5000万冊あるという伝票の山の中から,顧客名簿と業務日誌を頼りに目的の伝票を見つけ出し,それを解読してさまざまな情報を得るという研究は膨大な時間と労力を必要とする仕事ですが,この地道な仕事から多くのことが分かってきています.たとえば,オペラの作曲家と歌手は高額の年俸を得ていたのに対して,器楽奏者は副業をしなければ生きていけない程度の年俸しかなかったこと,あるいはアリアや序曲の作曲家とレチタティーヴォの作曲家とは別人であることがしばしばあり,レチタティーヴォの作曲家は多くの場合,チェンバロ奏者であったことなどです.そしてオペラが次第にシリアスな内容になるにともない,本来の作曲家がレチタティーヴォも作曲するようになってきたと言うことです。山田さんは史料が残っていたのでこうした研究が可能だが,200年後あるいは500年後に,現在の音楽について同じような研究が可能であろうか,との疑問を呈されました。たしかに資料の電子化とそのデュラビリティは大きな問題であり,真剣に考える必要があると思います。山田さん,たいへんレベルが高く,しかも面白いお話をありがとうございました。  (橋都)

ムッソリーニの子どもたち -ファシズム体制下の少国民形成について-(概要)

第386回例会

・日時:2012年8月28日(火)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:藤澤 房俊 東京経済大学教授

・演題:ムッソリーニの子どもたち -ファシズム体制下の少国民形成について-


 イタリア研究会第386回例会が開かれました。講師は東京経済大学教授の藤澤房俊先生、演題は「ムッソリーニの子どもたち―ファシズム体制下の少国民形成について」でした。イタリアではムッソリーニによるファシズム体制のもと、子どもたちをファシズムに導くために、バリッラと呼ばれる子どもたちの養成組織が整備されました。これは学校とは別の課外活動でしたが、学校においても1930年から国定教科書が導入され、その中ではムッソリーニが賛美され、バリッラとその制服がかっこ良いものとして持ち上げられていました。また男らしさ、女らしさ、多産が奨励され、少国民をファシズム体制に組み込むのに大きな役割を果たしました。藤澤先生は、当時実際に使われていた国定教科書の中で、ムッソリーニを賛美し、子どもたちに愛国心を喚起するためにどのような言説が用いられたかを示すとともに、初等教育においても次第に人種主義的な色彩が強くなり、ついには明らかな反ユダヤ主義が示されるようになった経過を明らかにしてくれました。われわれの全く知らない情報が多く、参加者は熱心に聞き入るとともに、講演後には、日本の軍国主義とイタリアのファシズムとの基本的な違いがどこにあったのか、あるいはバリッラとヒットラー・ユーゲントとの影響関係など、鋭い質問が続出しました。これは会員の方々のこの問題についての関心の深さを示していると考えられました。藤澤先生、興味深いお話をありがとうございました。(橋都)

タブッキののこしたもの(概要)

第385回例会

・日時:2012年7月24日火曜日19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:村松 真理子 東京大学大学院総合文化研究科准教授

・演題:タブッキののこしたもの


 今回のテーマは,今年の3月に亡くなった現代イタリアの最大の作家であるアントニオ・タブッキに関するもので,題して「タブッキの残したもの」,講師は東京大学大学院総合文化研究科准教授の村松真理子先生です。おもに先生はご自分が翻訳された彼の処女作「イタリア広場」を手がかりに,タブッキの文学の特徴,文体を鮮やかに分析されました.彼の作品は同時代のイタリア人作家の中では飛び抜けてヨーロッパ的・国際的ですが,その中には常に二面性が隠されていること,その二面性は彼が生きた時代と育った土地,トスカーナ地方のピサと結びついていることを示されました.彼の作品の二面性はテーマとしては「個人と社会」「民衆と国家」「ファシズムとレジスタンス」であり,スタイルとしては「マニエリスムとアンガージュマン」として表されます。先生はタブッキが何度かノーベル文学賞候補に挙げられながら,それを受賞する前に亡くなってしまった事を嘆いておられましたが,難しそうに思えても,読んでみると直接,読者の心に訴えてくるものが多い彼の文学にぜひ親しんで欲しいと,講演を終えられました。さいわい日本には須賀敦子さんの訳(「インド夜想曲」「供述によるとペレイラは」「逆さまゲーム」)を初めとして,村松先生ご自身の訳(「イタリア広場」)など,多数のタブッキの作品が翻訳されています。これを機会にぜひ皆さまもタブッキを読んで頂きたいと思います。(橋都)

ギリシャ、イタリア、フクシマ(概要)

第384回例会

・日時:2012年6月25日月曜日19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:藤原 章生 毎日新聞夕刊編集部

・演題:ギリシャ、イタリア、フクシマ


 第384のイタリア研究会例会が開かれました。講師は毎日新聞前ローマ支局長の藤原章生さん、演題名は「ギリシャ,イタリア,フクシマ」でした。藤原さんは今年の1月に亡くなったギリシャの映画監督テオ・アンゲロプロスに昨年インタビューした時の「われわれは扉の前に立ちすくんでいる。そしてその扉を壊すのはイタリア人だろう」という内容の彼の予言めいた言葉を手がかりに、ギリシャ危機、イタリアの問題点、これからの世界が進む方向について話をされました。そしてこのアンゲロプロスの言葉に多くの人々が反応したのはなぜなのか、どのように反応したのか、とくにイタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの「その扉が優しく開かれることはないだろう」との言葉を紹介してくれました。そしておそらく現在の経済システムがそのまま続くことは無く、その問題点に鋭く反応している地中海諸国、とくにイタリアの人々が先行して、世界の変革が起こる可能性があるが、一時的なカオスがもたらされる可能性があるとの彼自身の考えを語られました。藤原さん,たいへん刺激的なお話をありがとうございました。(橋都)

わがイタリア人生60年(概要)

第383回例会

・日時:2012年5月29日(火)19:00-20:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:田辺 健 イタリア研究会名誉会員

・演題:わがイタリア人生60年


 第383回のイタリア研究会例会が行われました。今回の講師はイタリア研究会の創設者である元ミラノ総領事の田辺健さん、演題名は「わがイタリア人生60年」です。田辺さんは戦後、日本が外交権を回復した直後からローマで大使館の立ち上げ、次いでミラノ総領事館の立ち上げに携われた、まさに戦後の日伊関係の生き証人とも言える方です。田辺さんはヨーロッパへの憧れから、東京外語のイタリア語科を目指した青春時代から、戦後のローマでの大使館、ミラノ総領事館の開設の経緯、その間のベニャミーノ・ジーリ、ヘルベルト・フォン・カラヤンらの著名人、皇室の方々との交流を、ユーモアを交えて語られましたが、聴衆にとってはびっくりし、また感嘆する話ばかりで、予定された2時間があっという間に過ぎてしまいました。皆さんから「1回では足りない,もっと聴きたい」「次はバチカン関係のお話を」など沢山の要望が寄せられました。田辺さんのご負担も考慮しなければなりませんが、何とか続編を実現させたいと思います。その後の懇親会にも大勢の会員が集まってくださり、いつまでも話が尽きませんでした。これは田辺さんのキャリアがもたらしたものではなく、誰にも同じように接してくださる田辺さんのお人柄によるものであると思います。田辺さん,本当にありがとうございました。(橋都)

イタリアとブタ ~ブタを取り巻く文化と食習慣(ガストロノミア)~(概要)

第382回例会

・日時:2012年4月6日金曜日19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:粉川 妙 イタリア食文化研究家

・演題:イタリアとブタ ~ブタを取り巻く文化と食習慣(ガストロノミア)~ 


 4月6日(金)にイタリア研究会第382回例会が行われました。演題名は「イタリアとブタ:ブタを取り巻く文化と食習慣(ガストロノミア)」でした.講師はウンブリアのスポレート在住のイタリアの食・スローフード研究家でライターの粉川妙さんです。われわれ日本人は西洋料理の代表としてはビフテキを思い浮かべてしまいますが,ヨーロッパでは本来,牛は働かせる動物,乳を搾る動物で,食べる動物の代表は伝統的にブタだったのです。粉川さんはこのヨーロッパのブタ食文化が,エジプト,ギリシャ,ローマから続く伝統であり,ブタは聖性とけがれと両方を持つものと考えられてきたこと,ローマ人はもともと菜食が中心であったのだが,ユダヤ人やケルト人にブタ飼いをさせて,ブタを蛋白源とするようになったことを,多くの図版を使って話をされました。そして中世以降は森でドングリを食べさせてブタを太らせ,冬に殺して加工食品とするという現代に繋がる習慣が確立したこと,ブタ飼いの地位が農民よりも高かったことを示されました。しかしその後に,貴族階級ではジビエがより高級であるという風潮が広まったために,ブタは庶民の食べ物であるという考えが固定化されたのだそうです。さらに「ブタは鳴き声以外はすべて食べられる」ということわざ通りに,ブタのあらゆる部位を使った加工食品,プロシュット,サラミ,ラルドなどの写真,製造現場の様子を示されました。90分の講義の終わりには,空腹感を覚えた方も多かったのではないかと思います。聴衆からは「非常に面白かった」という感想が多く,その後の懇親会でもイタリアのブタ食文化,その他の食文化の話に花が咲きました。粉川さん,ありがとうございました。 (橋都)

イタリアの年金制度(概要)

第381回例会

・日時:2012年3月10日(土)14:50-16:40

・場所:南青山会館2階大会議室

・講師:中益 陽子 都留文科大学

・演題:イタリアの年金制度 


 第381回イタリア研究会例会が開かれました。演題名は「イタリアの公的年金制度:イタリアは年金天国か」で,講師は都留文科大学文学部社会学科講師の中益陽子さんで。どうも日本ではイタリアは年金天国のように考えられています.中益さんのお話では,たしかにある時期,特定の職種においては,受給者にとって有利な年金制度があったことは事実のようです.しかし日本と同じく国の財政状況が厳しいイタリアでは,次々と年金改革が行われており,その基本は受給前の給料を反映させる報酬方式から,拠出した保険料総額を反映させる拠出方式への転換です.これにより,多くの受給者で年金の受給額が減っています.結局はよく言われるように“free lunch というものはない!”ということのようです。さらにイタリアの年金制度は基本的に,国民全体を対象とした制度ではなく,就労者だけを対象とした制度ですので,日本との単純な比較はむつかしいのです.また日本の生活保護に該当するような制度が無く,所得の再分配が効きにくいシステムとなっています.これは,困った時にはお上が何とかしてくれる,と考えがちな日本人に対して,イタリアには国による干渉を嫌う国民性があるということを,中益さんは指摘されました。複雑で分かりにくい内容を,明快にお話しされた中益さんありがとうございました.参加者の年金に対する関心は非常に高く,講演後にはさまざまな質問が続出しました。 (橋都)

私の(子連れ)イタリア料理修行(概要)

第380回例会

・日時:2012年2月28日(火)19:00-21:00

・場所:東京文化会館4階大会議室

・講師:山中 律子 イタリア料理ジャーナリスト

・演題:私の(子連れ)イタリア料理修行


 イタリア研究会第380回例会が開かれました。講師は会員でもあるイタリア料理ジャーナリストの山中律子さん,演題名は「私の(子連れ)イタリア料理修行」でした。広告代理店のコピーライターを続けながら毎年のようにイタリアに料理修行に行っておられる山中さん,現在は二人の男の子がいるのですが,なんとそのお二人を連れての料理修行を行っています.しかし山中さんのお話を聞いているうちに,それは単に彼女のバイタリティーや根性によるのではなく,イタリアという国,イタリア人という人々がいるからこそ,可能であるということがよく分かってきました。つねに励まし,子どもを大事にしてくれるイタリアの人々の存在が,山中さんの行動を支えてきたのです。お料理や人々の美しく楽しい写真の数々を見て,お腹が空いた方が多かったようですが,それよりも,またイタリアに行きたい,またイタリアの人たちに会いたいと思った人の方がずっと多かったのではないでしょうか。懇親会でも,いつまでもイタリアの話が尽きませんでした.山中さん,どうもありがとうございました。 (橋都)

ダンヌンツィオと日本:友則,雷鳥,三島?(概要)

第379回例会報告

・日時:2012年1月27日木曜日19:00-21:00

・場所:南青山会館2階大会議室

・講師:村松 真理子 東京大学教養学部准教授

・演題:ダンヌンツィオと日本:友則,雷鳥,三島?


 イタリア研究会第379回例会が開催されました。演題は「ダンヌンツィオと日本:友則,雷鳥,三島?」で,講師は東京大学教養学部准教授の村松真理子先生です。ダンヌンツィオは19世紀から20世紀にかけて活躍したイタリアの詩人・小説家ですが,ムッソリーニとは距離を保っていたにもかかわらず,その行動と生涯からファシズムとの関連が連想され,第2次世界大戦後には意識的に言及されなくなってしまった作家です.しかし彼は明治,大正時代の日本では(フランスにおいても)大変な人気があり,上田敏の訳詩集「海潮音」の最初と最後を飾っていることは,意外と知られていません。また彼は日本の短歌にも興味を持っており,イタリア語で「5, 7, 5, 7, 7」の音節を持つ短歌(まがい)を作るという離れ業も見せています.松村先生は,ある意味で山っ気たっぷりな彼の生涯と,彼の小説を模倣して心中未遂事件まで起こした森田草平,平塚雷鳥のカップル,そして彼に会見することを熱望した多くの日本人達との関わりを,貴重な資料を交えて活き活きと描いてくれました.そして何といっても,誰よりも彼の影響を強く受けたと考えられる三島由紀夫について,ダンヌンツィオと比較しながら,その作品や映像,行動を分析されました。そして三島を単に特異な作家と片付けるのではなく,日本において,ダンヌンツィオ的なものが受け入れられる素地が脈々と続いていると考える

べきではないかと語られました。非常に興味ある刺激的なお話で,講演後には多くの質問やダンヌンツィオと日本との関係に関する新しい情報が寄せられ,時間が足りなかったのが残念なほどでした.村松先生,どうもありがとうございました。(橋都)