ファシズム体制と『リーダーシップ』(概要)

第389回例会

・日時:2012年11月29日(木)19:00-21:00

・場所:南青山会館2階大会議室

・講師:石田 憲 千葉大学政経学部教授

・演題:ファシズム体制と『リーダーシップ』


 第389回のイタリア研究会例会が開かれました。講師は千葉大学政経学部教授の石田憲先生,演題は「ファシズム体制と『リーダーシップ』」です。決められない政治が続く日本では,ファシズムのイタリアを指導したムッソリーニを再評価しようという動きもあるようですが,はたしてトップダウンの政治がそれ程までに有効で魅力的なものなのか,石田先生はファシズム体制下のイタリアにおける政策決定,とくに外交政策の決定における問題点を,克明に指摘して下さいました。1830年代のイタリアでは,ムッソリーニの娘婿で小ムッソリーニと呼ばれたチアーノが外務省を牛耳っていましたが,とくに重要な案件については,ムッソリーニ自身が直接,決定を行っていました.その結果として,彼の思いつきに近いような対外政策が行われるようになり,外務省内にそれに対抗する勢力が存在しなかったわけではありませんが,次第に力を失ってしまいました。これは同じ時期の日本でも同様であって,外務省内での情報の収集と討議による対外政策の決定が行われなくなってしまい,正論を唱える外交官たちが力を失ってしまって,軍部の暴走をまねくことになりました。こうした歴史を考えると,「リーダーシップ」に期待するのではなく,正確な情報と外務省内部での討議による政策決定が,さまざまな困難な外交問題を抱える現在の日本においては何よりも重要であることを,石田先生は強調されました。質問では,同じような歴史をたどった日本とイタリアとの違いがどこにあるのか,現在の日本は,周辺諸国に対してどのように行動すべきか,など活発な意見の表明と議論が行われました。石田先生,貴重なご講演をありがとうございました。(橋都)