2008年 講演会レポート

イタリア経済-停滞の構造(概要)

第344回例会(2008年12月3日)

演題:イタリア経済-停滞の構造

講師:松本千城(まつもとちしろ)国税庁長官官房国際業務課課長補佐


 松本さんは2005年から2008年の間,在イタリア日本大使館経済班に勤務され,帰国されたばかりです。イタリアで見聞したこと,調査したことに基づき,1990年代のイタリアにおける経済停滞の要因を分かりやすく解説していただきました。その要因として(1)ローテク偏重の産業構造,(2)低い教育・研究開発投資水準,(3)強い規制,(4)零細な企業規模,が挙げられました。そしてすでに一人あたりGDPではスペインに追い抜かれているという衝撃的な事実も明らかになりました。講演後には質問が続出,じつに活発な会となりました。その中で,質問者のお一人からの「いくら経済が停滞しているといっても,イタリア人は生活をエンジョイしているではないか」という発言が,会員の気持ちを表しているように思いました。松本さん,どうもありがとうございました。なお会場の南青山会館,懇親会場の「ラ・ボエーム」ともにとても好評でしたので,今後,東京文化会館と合わせて,この会場も積極的に使うようにしたいと考えています。(橋都)

ローマの地下世界ーカタコンベ研究の現在(概要)

第343回例会(2008年11月14日)

演題:ローマの地下世界ーカタコンベ研究の現在

講師:山田 順(やまだ じゅん)西南学院大学


 ローマの街には、古代ローマの建造物がそのまま残っていたり、それらを取り込んだ新しい建造物が数多く残されている。道路は、1,500年前ほど前からほとんど変わっていないし、衛星写真を見ると、古代の競技場や劇場などの痕跡が見て取れる。現在のローマの地面を6~8メートル掘り下げると古代ローマの地面に達して、何らかの遺構が現れる。古代ローマの城壁の外側の地下に、現在分かっているだけでも50箇所以上のカタコンベが残っている。カタコンベはキリスト教徒の墓であるが、ユダヤ教徒のものもある。カタコンベは聖ペテロ(サン・ピエトロ)の時代から、キリスト教がローマ帝国の国教になる頃まで作られたものである。その後は墓は地上に作られるようになったが、迫害時代の聖人が埋葬されていることから、巡礼地として多くの人々が訪れるようになった。ゲルマン人の大移動によって、ローマが脅かされるようになると、聖人の遺骨は城壁内の教会に移されて、カタコンベ自体が忘れられていった。19世紀になって、再びカタコンベが研究されるようになったが、いまだに研究者は少なく、人々の目に触れる機会もほとんどない。カタコンベは盗掘に遭っているものも多いが、さまざまな遺品や壁画が残されている。ことに壁画からは当時のキリスト教やローマの習俗などを知ることができて興味深い。(佐久間)

地中海に於けるイタリアビーチの魅力:やはりイタリアのビーチが一番!(概要)

第342回例会(2008年10月30日)

演題:地中海に於けるイタリアビーチの魅力:やはりイタリアのビーチが一番!

講師:机 直人(つくえ なおと)


 今話題の外資系投資銀行社員から写真家に転身した異色の経歴を持つ机さんのお話は,たんにイタリアビーチの美しさだけではなく,それを楽しむイタリア人の魅力にも及んで,やはりイタリアのビーチが一番!という結論には,とても説得力がありました。映写されたたくさんの美しい写真,ため息をつくほど美しい海の青さと砂の白さ,日本の海岸とは違ってまばらな人影,多くの方がイタリアビーチにいってみたくなったのではないでしょうか。そこで特別に昨日参加されなかった方にも,机さんお勧めのビーチをそっとお知らせしましょう。

1. 南サルデーニャ:南西のキア周辺.南東のビラシミウス周辺.

2. シチリアの離島:エガディ諸島とエオリエ諸島.

3. プーリアのガルガーノ半島以南:モノポリ郊外のカピトロ浜.トッレ・ドルソ.マリーナ・レウカ.   (橋都)

“ジョットの遺産”展にちなんで(概要)

第341回例会(2008年9月21日)

演題:“ジョットの遺産”展にちなんで

講師:小佐野 重利


 損保ジャパン東郷青児美術館で行われている展覧会の企画者のおひとりである小佐野先生にご講演をお願いしまし。先生は「台風で講演会が中止になるのを期待していたのですが」とおっしゃりながらも,そのお話は次第に熱をおび,2時間を超える講演となりました。内容は今回出品されているジョットの作品解説はもとより,日本におけるジョット受容の歴史,ジョットの絵画における革新性,スクロヴェーニ礼拝堂の構造とジョットの壁画の有機的関連にまで及びました。さらに絵画の制作年代決定のために,他の絵画はもとより文字資料,写本などの資料をいかに利用するかといった専門的な点にも触れられ,われわれ素人も美術史研究の面白さの一端を知ることができました。出席者からは「内容が専門的だったけれど面白かった」との声が上がっていました。小佐野先生どうもありがとうございました。(橋都)

Giro d'Italia イタリア1周自転車レース(概要)

第340会例会(2008年8月27日)

演題:Giro d'Italia イタリア1周自転車レース

講師:橋都 浩平 イタリア研究会事務局・運営委員会委員長


 8月27日,イタリア研究会第340回例会が行われました。演題は「Giro d'Italia:イタリア1周自転車レース」で,講師は運営委員長である僕が務めました。自転車レースとはどういうものかをご存じない方がほとんどと思われますので,まず自転車レースとはどういうスポーツで,どのような特長があるかを陸上競技のマラソンと比較しながら解説しました。そしてGiro d'Italiaをほぼ同じ規模の自転車レースであるツール・ド・フランスと比較しながら,その歴史を述べました。その後に過去のイタリア人名選手たちを,自転車レース史上最大のライバルと目されているファウスト・コッピとジーノ・バルタリを中心に紹介しました。そして最後に喜劇俳優トトが主演し,この2人が実際に出演している1948年の映画「Toto al Giro d'Italia」を上映して,講演を終わりました。今後みなさんが多少でも自転車レースに興味を持っていただければさいわいです。講演後には,ドーピング問題や自転車レースの戦略についての質問も登場し,さらに田辺さんからは有名な1950年代のコッピの不倫スキャンダルの報道の思い出話も披露されて例会は幕を閉じました。ご参加のみなさん,僕のつたない話におつき合い下さりありがとうございました。(橋都) 

プーリア地方の海洋都市とその再生 ガッリーポリとモノーポリ(概要)

第339回例会(2008年7月22日)

演題:プーリア地方の海洋都市とその再生:ガッリーポリとモノーポリ

講師:陣内 秀信 法政大学教授


 さすが大人気の陣内先生,会場の東京文化会館大会議室はまさに満員の盛況でした.陣内先生はご自分や教室の学生さん達が撮った写真,作成した図面を多数示しながら,プーリア地方の港町の現状とその再生への動きについて,熱く語ってくださいました。かつて交易やオリーブオイルの輸出で富を蓄えたプーリアの海洋都市が,19世紀の新市街の建設とともにチェントロ・ストリコが衰え荒廃してゆくという共通の歴史をたどりながらも,この10年めざましい復興と再生を遂げていることが,みごとに示された内容でした。聴衆の多くは日本の地方都市の現状と比較しながら,講演を聴かれたことと思います.講演後にはこうした観点からの質問が多く出ていました。それにしても陣内先生のお話はいつもながら熱気に溢れ,また常に前向きなので,出席のみなさんも元気をもらうことができたのではないでしょうか。懇親会にも通常の例会参加者ほどの人数が集まり,大盛況でした。(橋都)

プーリア地方の海洋都市とその再生 ガッリーポリとモノーポリ

第339回 イタリア研究会 2008-07-22

プーリア地方の海洋都市とその再生 ガッリーポリとモノーポリ

報告者:法政大学教授 陣内 秀信

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二大政党連合から二大政党へ -イタリア2008年総選挙-(概要)

第338回例会(2008年6月20日)

演題:二大政党連合から二大政党へ -イタリア2008年総選挙-

講師:後 房雄


 この後教授の講演を聴いた人は,選挙に対する見方がガラッと変わったのではないか。イタリアの選挙の話だと思っていたら,イタリアの選挙を通して見る選挙制度のあり方,特に日本の現状分析だった。先ず,比例代表制と小選挙区制の意味。「比例代表制選挙が最も民意を反映する」と思ったら大違い。比例代表制選挙では,小政党でも幾ばくかの議席を得られ,政党の乱立になり易い。単独過半数を取る政党がない場合,選挙後に連立を組んで政権を握るために,往々にして公約と程遠い妥協が,選挙民のあずかり知らぬ所でなされる。いっぽう小選挙区制では,一党で過半数を取れそうもないときには,最大の支持率を得られる連立を組めば選挙に勝てる。選挙前に連立を決め,マニフェストを掲げて選挙を行うことは,選挙民にとっても安心して投票できることになる。政党乱立による政情不安定と選挙後の妥協の連立政権の弊害から,イタリアは1993年に小選挙区制を取り入れた。選挙に勝つためだけの連立が行われ,4回の選挙で右派と左派が2勝ずつを挙げた。そして今年のイタリアの選挙は,ベルルスコーニの中道右派連合が,中道左派連合から政権を奪い返した。ところが1994年に,憲法を変えるために,不完全ではあるが小選挙区制を取り入れた日本では,自民党が悲願の3分の2議席を得ることはなかった。その後の紆余曲折の中で,連立さえ組めば野党が勝てると分かっていながら,勝つための連立を組んだのは自民党で,結果として4連勝を成し遂げた。日本共産党が,勝つことのない全ての小選挙区に候補を立てていたことは,自民党を支えることに外ならなかった。その後2005年にイタリアの選挙制度が変更され「小選挙区制から比例代表制に逆戻りした」と日本のマスコミは報道したが,第一党が全議席の約54%を得るというもので,比例代表制のように見える小選挙区制である。連立で政権を取れることを良く理解して,大連立を繰り返して来たイタリア諸政党だが,ここに来てその弊害を避けるために,連立よりも「単独政党で政権を取ろうとする」動きが出てきている。それが本日の演題「二大政党連合から二大政党へ -イタリア2008年総選挙-」の意味するところであった。(佐久間)

プッチーニの女性観(概要)

第337回例会(2008年5月21日)

演題:プッチーニの女性観

講師:香原斗志(かはらとし)


 早大教育学部卒。イタリアオペラを中心に批評活動を展開。雑誌や公演プログラムへの執筆多数。音楽サイトclassic 1st等にオペラ関連連載中。著書「イタリアを旅する会話」(三修社)。日本ヴェルディ協会,日本ロッシーニ協会会員。

 プッチーニの生誕150年を記念する講演でした。プッチーニのオペラに登場する女性たちはいずれも,現実の世界にはあり得ないほど,純粋に愛に生き,男性に尽くしています.じつはこれは台本の段階で,プッチーニが徹底的に駄目出しをしたことによるもので,原作とはずいぶん違っていること,しかし音楽が甘美で説得力があるために,聴衆はヒロインに感情移入してしまうことを,香原さんはラ・ボエームやマダム・バタフライを例に挙げて説明されました。そしてプッチーニの実生活では,ドーリア・マンフレディという若い小間使いが,プッチーニの奥さんの嫉妬がひとつの原因となって自殺している こと,彼女がトゥーランドットのリュウのモデルとなっている可能性を示唆されました。これは学問的には証明ができないまでも,とても説得力のある考えのように思われ,今後この歌劇を鑑賞する場合に,ひとつの手がかりになるように思われました。(橋都)

地域づくりの新潮流~スローシティー・アグリトゥーリズモ・ネットワーク(概要)

第336回例会(2008年4月24日)

演題:地域づくりの新潮流―スローシティ・アグリツゥーリズモ・ネットワーク

講師:松永安光氏,建築家,近代建築研究所代表取締役社長,

   東京芸術 大学大学院非常勤講師,前鹿児島大学教授


 松永先生のお話は,イタリアで生まれたスローシティーの概念から始ま り,そのイタリアでの実例,鹿児島での取り組み,そしてネットワーク論まで非常に幅広いかつ示唆に富むものでした。イタリアと較べたときの日本の地方都市の問題点,とくに地方自治体の首長,官僚のレベルや志の違いが,日本の地方の現状をもたらしているという指摘は,先生の 実際の体験に基づくものであるだけに,説得力がありました.今後はネットワークを生かし,都会とのコラボレーションにより,発展する可能性が示されて,共感を覚えた方も多かったのではないかと思います。(橋都)

美術の中のヴィーナス ウルビーノのヴィーナス展を楽しむ(概要)

第335回例会(2008年3月31日)

演題:美術の中のヴィーナス:「ウルビーノのヴィーナス」展を楽しむ

講師:渡辺晋輔,国立西洋美術館研究員


 渡辺さんのご講演は,ギリシャ・ローマ世界で成立したヴィーナス神話とそれに基づいたヴィーナス像が,ルネッサンスにおいてどのように再生したのか,ルネッサンスの芸術家たちが,いかに古代のヴィーナスを自分のものとしていったかのお話から始まりました。そしてティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」の源流がどこに求められるのか,作者がそのヴィーナスに現実感を与えるためにどのような工夫をしているのか,モデルは誰であったのか。そしてこの作品が後世にいかに大きな影響を与えたか,を沢山のヴィーナス像を示しながら語られました。実に興味深いご講演で,まだ展覧会をご覧になっていなかった参加者は,明日にでも見に行きたいと思ったのではないでしょうか。講演後には予想以上に沢山の幅広い質問が続出し,楽しい講演会となりました。(橋都)

中世の城塞集落を巡って(概要)

第334回例会(2008年2月29日)

演題:中世の城塞集落を巡って

講師:西村 善矢


 イタリアとくにトスカーナの景観に特徴的な丘の上の小都市「カステッロ」,その歴史的な成り立ち,都市コムーネとの関係を沢山の美しい写真とともに語っていただきました。カステッロの中にはエトルリア時代に起源を持つものもあること,これまで主張されてきたようにカステッロの成立の目的が異民族からの防御ということよりもむしろ,領主の権力を発揮するための装置という側面が強いこと,などわれわれの知らない貴重な知識を披露していただき,本当に勉強になりました。 (橋都)