イタリア郷土料理探訪記(概要)

第357回例会

日時:2010年2月28日(日) 14:00-16:00

講師:橋本 直樹 フィオレンツァ・シェフ

演題:イタリア郷土料理探訪記

会場:南青山会館2階会議室


 講師はリストランテ・「フィオレンツァ」のシェフで(株)カルぺディエムの社長も兼ねておられる橋本直樹氏、演題は「イタリア郷土料理探訪記」。評判の高い講師の魅力的な演題とあって休日にも拘わらず参加者は約60名とほぼ満席の大変な盛況振りでした。午後2時から約2時間半、食材とその生産者、食堂とそのオーナー、料理、土地の風景や歴史など数百枚(?)のスライドを駆使され、時にユーモアを交えての淀みのないご講演は正に「プロの真髄」の迫力に満ちたもので聴衆はすっかり魅了され、時の経つのを忘れました。

<ご講演の要旨> 

フランス料理に10年間携わった後イタリア料理に転向、今年で18年目となる。イタリア料理を手掛けて見ると、「長年のフランス料理の流れでどうしても味付けが濃くなり勝ち」、「自分の内部に潜在している”日本のおふくろの味”にも影響される」、「総じて日本のイタリア料理は日本人の好みに合わせる形にmodifyされている」などの点を強く意識させられたので、「この際イタリアに行き、徹底的に”イタリア料理の源流”を究めることに拠り(謂わば”イタリア郷土料理原理主義”)、自分に潜在している”日本のおふくろの味”に逆らい、”イタリアのおふくろの味”を自らに沁み込ませよう」と決意、これを実行に移した。2003年に渡伊、フィレンツエを根拠地として13ヶ月間、全土の郷土料理を探訪した。その後もほぼ毎年、20日間~1ヶ月程度各地の郷土料理探訪を継続している。これら全てを本日紹介することは到底不可能なので、今回は2007年に旅したイタリア中部編(トスカーナ、ウンブリア、ラツィオ)についてお話したい。(この後、北はリグーリアとの州境から南はローマの近くまで、険しい山間の小村落を含む多数の町や村についての郷土の食材・料理の探訪記を披露された。本報告でこれを網羅することは困難なので、詳細は今月中にもイタリア研究会ホームページに掲載される例会報告に譲ることとして、本報告者としては以下ほんの「さわり」をご紹介するだけに止めたい)。 

1.ポントレーモリ

 山岳地帯にある州境の町(州境には独特の食文化がある)。ラ・スぺツィアに近い。チンクェテッレから山道を辿る。ここで見出したのが独特のパスタ・「テスタローリ」。むっちりとしていて断面を見 ると縦に気泡が走り、銅鑼焼きの皮の感触にも似ている。山向こうの栗栽培をしている人たちが栗を焼いた後の余熱を利用して作っている。トラットリア・ダ・ブッセ(食堂)では「テスタローリ+オリーブオイル+大蒜+松の実」のパスタ料理が美味で、店の主人はテスタローリはイタリア最古の生パスタ、郷土の誇りと自慢していた。この町にはもう1軒食堂がある。

2.ゼーリ 

 ポントレーモリ近くの村。名物は乳のみの子羊。生まれて間もなく未だ草を食んでいないもの。民衆に代わって磔になったキリストを偲び食するとのこと。筋がなくとろけるような素晴らしい味で「羊独特の癖」とは全く無縁。彼らはこれをミディアムではなくて最後迄焼いて食べる。またここからニ山ほど越すと一帯は全て栗の木の林。この地域では嘗ては栗粉が主食で、これでスープ、パン、フリッテッレなどを作っていた。栗粉のパンはグルテンがないのでボソボソして美味しくない上値段も高いので不人気(リコッタチーズ+はちみつには合う)。現在栗粉パンの工房は一軒のみでここから更に山奥の人口数十人の村にあり、ここも訪問した。若い職人が一人真剣そのもので取り組んでいたが、彼も近い内転職する積りと言っていた。

3.コロンナータ イルポッジョ(カッラーラ近く)

 ここの名産はラルデリーヤ(豚の背油-ラルド-の塩漬け)。背油に岩塩、大蒜、ローズマリー、クローブなどを 入れて数ヶ月から1年漬け込む(型は大理石の入れ物)。出来上がったものを極薄に切り、塩気の無いトスカーナのパンに載せて食べる、これは最高に美味しい。ここは縞模様のない大理石の産地で嘗てはミケランジェロも住んでいたところ。昔は石切の労働者も多数いて、コロンナータのラルドは肉体労働に明け暮れるこの人たちのエネルギー源でもあった。

ご講演後の二次会は何時もの「ラ・ボエーム」で。約20名が参加、シェフを交えて活発なイタリア料理談義が続きました。(猪瀬)