ウンベルト・エーコとは何者だったのか(概要)

8月例会(434回)

・日時:2016年8月19日 (金) 19:00-21:00

・場所:国際文化会館講堂 (東京都港区六本木5‐11‐16)

・講師:和田 忠彦氏(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)

・演題:ウンベルト・エーコとは何者だったのか

 

ウンベルト・エーコが2月19日に亡くなり、ちょうど半年後、第434回イタリア研究会例会がエーコをテーマに行われました。講師はエーコの多数の著作を翻訳し、本人とも親交のあった東京外国語大学大学院教授の和田忠彦先生、演題名は「ウンベルト・エーコとは何ものだったのか」でした。

和田先生は1982年に最初にエーコに出会ってから、他の翻訳者たちとともに世界中を旅しながらさまざまなことを彼から学んだと語り始めました。そして彼がみずからの読書体験を明らかにした著書を手がかりに、彼が大衆小説に若い頃から関心を抱いており、実際に若書きの小説を書いた経験もあること、記号学者としての評価と地位が定まった後にようやく小説を書き始め、次第にそれに自信を深めていったと考えられることを指摘しました。エーコは基本的に“物書き”であり、それを楽しんでいたと考えられるということです。

エーコはクオリティ・ベストセラーという考えを提唱しており、戦後文学のひとつの潮流であったアバンギャルド、アンチロマンは決して文学の主流にはなりえず、テクストからテクストへと生き延びるような古典的なプロットを持った本来の小説の復活を狙っていたと考えられます。彼にしたがえば、ダンテもシェークスピアもクオリティ・ベストセラーを書いたのであり、それこそが古典として現在まで伝わっている作品群であるというのです。しかし彼の最後の著作が中世史の大著であることを忘れてはならず、そうした多面性もエーコの重要な側面であることを忘れてはならないと思います。

和田先生の広範な学識と、実際の翻訳という作業とに裏打ちされた講演は知的興奮を呼び起こすもので、講演後には様々な立場からの質問が続出しました。和田先生、ありがとうございました。(橋都)