記録を守り、記憶を伝えるイタリア(概要)

6月例会(456回) 

・日時:2018年6月21日 (木) 19:00-21:00

・場所:東京文化会館 4F大会議室

・講師:湯上 良(ユガミ・リョウ)氏(学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻 助教)

略歴:東京外国語大学トルコ語専攻を卒業、(株)日本電気勤務の後、2002年よりヴェネツィア大学に入学。2005年度イタリア政府奨学金留学生、同大で学士号・修士号取得後、2015年にヴェネツィア共和国の税制と情報管理に関する博士論文で史学博士号を取得した。2015年から2018年3月まで国文学研究資料館でマレガ・プロジェクトに従事し、2018年4月より学習院大学助教を務める。訳書にM. インフェリーゼ『禁書』(2017年)、M. B. ベルティーニ『アーカイブとは何か』(2012年、ともに法政大学出版局)。

・演題:記録を守り、記憶を伝えるイタリア

 

概要:公文書改ざん、日報問題、消えた年金等、公文書管理法が制定されてもなお、日本ではさまざまな形で文書にまつわる問題が起こっています。「水に流す」という言葉がありますが、こうした事件が起きるのは、果たして日本が特殊な国だからなのでしょうか。イタリアは、さまざまな文化財の保護に力を入れていることが知られていますが、実は「文書」も「アーカイブズ財」と呼ばれ、文化財の一部として手厚く保護しているのです。イタリアは、隠れた「アーカイブズ大国」と言ってもいいかもしれません。かつて日本が学んだ他のヨーロッパ諸国の様子も交えながら、記録を守り、記憶を伝えることについてご一緒に考える時間がもてればと思います。(湯上)

 

イタリア研究会第456回例会が行われました。講師は学習院大学大学院アーカイブズ学専攻助教の湯上良さん、演題は「記録を守り、記憶を伝えるイタリア」です。昨今、公文書の改ざんが問題になっていますが、各都市に文書館が整備されているイタリアの事情はどうなのか、たいへん地味な話題と言ってもよいと思いますが、おおぜいの聴衆が集まりました。

イタリアでは憲法によって「国にとって重要な歴史・芸術遺産や景観を保護する」と謳われており、そこには図書や文書も含まれています。しかし歴史的に文書保護が順調に経過してきているわけではありません。共和国成立で各地・各都市に保存されていた文書が中央に集められた結果、スペースの制約のために大量の文書が廃棄されたこともありました。また水害や地震で多くの文書が損害を受けたこともありました。現在はおよそ2州に1機関の割で文書・図書保護局が設置され、国防省警察には文化財保護専門部隊も作られています。

日本と一番大きく異なるのは文書管理の人材育成でしょう。イタリアでは18世紀末から文書の解読と管理を専門とするアーキビストが養成されてきました。1963年には「アーカイブズ法」が制定され、現在は全国17校の古文書学校でアーキビストが養成されています。文書の保存と公開のシステムの構築には、文書を作成する官僚とアーキビストとの共同作業が必要です。日本でも国家資格を持った専門職としてのアーキビストの養成が望まれる所です。湯上さんは文書の保存と公開は国民の権利であり、勝ち取らなければ得ることはできないという言葉で講演を終わりましたが、その通りだと思います。

講演後には多くの質問が出て、皆さんの関心の高さがよく分かりました。湯上さんありがとうございました。(橋都)