文化交流の本当の意義:能楽から見た世界(概要)

7月例会(457回) 

・日時:2018年7月27日 (金) 19:00-21:00

・場所:東京文化会館 4F大会議室

・講師:宝生 和英氏 (能楽師)

略歴:1986年東京生まれ。1991年能「西王母」子方にて初舞台。2008年に宝生流第20代宗家を継承。

一子相伝曲「弱法師雙調ノ舞」「安宅延年の舞」などを多数披く。伝統的な公演を基本に、現代社会においての能楽の価値を創造し提案をする。

海外ではイタリア、香港にて活動。能楽を活用したアートマネジメントを展開している。

これまでにミラノ万博、トリエンナーレ万博に参加。ジャパンオルフェオ、ミラノスカラ座シンポジウムなど日伊国交樹立150周年事業に多数参加。

2016年には文化庁より東アジア文化交流使に任命され、香港に赴任し、毎年香港大学との交流事業を展開。2017年には日本バチカン国交樹立75周年バチカン勧進能を制作・主演。2018年ローマ・フィレンツェにて公演。

・演題:文化交流の本当の意義~能楽から見た世界~

概要:国をはじめ、社会で声高に叫ばれています従来の文化交流に関して、 

一度冷静になってその問題点や本来の活用方法を私の経験や能楽の歴史からご紹介をしたいと思います。(宝生 )

 

イタリア研究会第457回例会が開かれました。講師は宝生宗家家元の宝生和英さん、演題は「文化交流の本当の意義:能楽から見た世界」でした。宝生さんは22歳で家元となり、映像を駆使した新しい企画も数多く手掛けています。2015年のミラノ万博以降、毎年のようにイタリア公演を行っており、その中で見えてきた能楽の問題点、海外公演の問題点、能楽とは何なのかという基本的な考察を披露してくれました。

2015年のミラノ万博は、ジャパンデーでの出演だったのですが、何とポピュラーアーティストとの協演で、トリはきゃりーぱみゅぱみゅ、ほとんどのイタリア人が彼女目当てで来場していました。宝生さんは能楽がエンターテイメントとしか捉えられていないことにショックを受けて、みずからイタリア公演を行うことを決意したのです。なぜ能楽への理解が深いと考えられるフランスではなくイタリアかというと、能楽へのある種の思い込みがあるフランスよりもイタリアに可能性があると考えたからだそうです。そして2016年のトリエンナーレ以降、ヴィツェンツァのテアトロ・オリンピコ公演、バチカンでの勧進能の奉納などを成功させる中で、多くの問題点も見えてきました。

海外公演を行うには、文化庁の海外公演助成を受けるのが王道なのですが、これは提出書類が膨大なだけではなく、各国の事情を全く考慮していない官僚的な制度で、しかも外国との年度の違いによって申請がうまく行かないなど多くの問題点を抱えています。またこれまでも能楽の海外公演は行われてきましたが、その効果の検証は行われず、フィードバックもされていませんでした。宝生さんはこれからも地道にイタリア公演を続けることによって、その効果にもコミットしたいと考えています。

能楽には長い歴史がありますが、じつは極めてフレキシブルな芸能で、その時代に応じて価値や役割を変えてきています。そもそも現在のような形の能楽堂で演じられるようになったのは明治以降であり、能楽師は能楽堂でも、座敷でも、神社仏閣でも演じられるように訓練されているので、テアトロ・オリンピコはもちろんのこと、バチカンやピッティ宮殿での公演にも全く問題はなかったという事です。宝生さんは、人と人との繋がりを大事にしつつ、企業との関係も単に不特定多数の観客を相手にする公演への財政支援だけではない関係を築きたいと試行錯誤を重ねています。宝生さんの今後の活躍に期待したいと思います。宝生さん、興味深いお話をありがとうございました。(橋都)