ロッシーニの芸術とその特質~没後150年を記念して (概要)

11月例会(461回) 

・日時:2018年11月6日 (火) 19:00-21:00

・場所:東京文化会館 4F大会議室

・講師:水谷彰良氏(日本ロッシーニ協会会長) 

 略歴:水谷彰良(みずたに あきら)1957年東京生まれ。音楽・オペラ研究家。日本ロッシーニ協会会長。フェリス女学院大学オープンカレッジ講師。オペラやコンサートのプログラム、CD・DVD解説、翻訳、エッセイなどを多数執筆し、『レコード芸術』(音楽之友社)、『モーストリー・クラシック』(産経新聞社)等に定期寄稿。『サリエーリ』で第27回マルコ・ポーロ賞を受賞。多数の論考を日本ロッシーニ協会のホームページに掲載。https://www.akira-rossiniana.org/

【著書】『ロッシーニと料理』(透土社、1993/2000年)、『プリマ・ドンナの歴史』(全2巻。東京書籍、1998年)、『消えたオペラ譜』(音楽之友社、2003年)、『サリエーリ』(同前、2004年)、『イタリア・オペラ史』(同前、2006年)、『新 イタリア・オペラ史』(同前、2015年)、『セビーリャの理髪師 名作を究める十の扉』(水声社、2017年) 

 【共著】『新編 音楽中辞典』(音楽之友社、2002年)、『新編 音楽小辞典』(同前、2004年)、『ジェンダー史叢書・第4巻 視覚表象と音楽』(明石書店、2010年)、『ローマ 外国人芸術家たちの都(西洋近代の都市と芸術 第1巻)』(竹林舎、2013年)ほか多数。

・演題:ロッシーニの芸術とその特質~没後150年を記念して 

 

 概要:昨年11月、イタリア上院議会はロッシーニ没後150年を祝う特別法案を可決し、2018年を“ロッシーニ年”と宣言しました。ユネスコもロッシーニ生誕の地ペーザロを“音楽の創造都市”に認定しています(同年10月)。日本ではウィリアム・テル序曲の作曲者、トリュフとフォアグラを乗せたステーキの考案者として記憶されるロッシーニですが、研究者の間ではモンテヴェルディやモーツァルトと並ぶ天才との評価が定着しています。この講演では、法案に記された“人類の偉大な価値、自由、愛、生と死の意味、大いなる人間の情熱を普遍的言語の音楽で独創的かつ無類の力で表現した偉人”ロッシーニの芸術とその特質を、上演映像を交えてお話します。(水谷)

 

 イタリア研究会第461回例会はロッシーニに関する演題でした。じつは今年はロッシーニ没後150周年にあたり、ロッシーニ・イヤーと定められています。しかし日本でのロッシーニの評価は低く、「ウィリアムテル序曲」「セビーリャの理髪師」の作曲家、「グルメ」で片付けられてしまいがちです。

講師の日本ロッシーニ協会会長の水谷彰良さんは、ロッシーニをモンテヴェルディ、モーツァルトに並ぶ3大オペラ作曲家と位置づけて、彼の真価を知ってもらうために奮闘を続けています。一時は世界中で人気を誇った彼のオペラが上演されなくなってしまったことにはいくつかの原因がありますが、彼が生涯半ばでオペラ作曲の筆を折ってしまったこと、彼のオペラは歌手に超絶技巧を要求し、それを担うべき歌手が少なくなってしまったこと、彼の本当の真価はオペラ・セーリアにあるにもかかわらず、初期のオペラ・ブッファがもてはやされて偏った評価しかされなかったこと、舞台上にブラスバンドを配置するなど、上演に人員とお金を要したこと、などが上げられます。彼がオペラを作らなくなった原因の第一は、フランスの7月革命にあったという事です。革命で打倒された前王朝とのオペラ作曲の契約、前王朝から受け取っていた年金問題などによってロッシーニが身動きを取れなくなったというのが真相のようです。

彼の真価が表れていながら、日本ではほとんど上演されることがないロッシーニのオペラ・セーリアのいくつかをDVDで鑑賞することができましたが、「オテッロ」「湖の女(湖上の美人)」「マオメット2世」「ギヨーム・テル(ウィリアムテル)」の音楽性とドラマ性は本当に素晴らしく鳥肌物でした。また彼はヴェルディに先がけて自由主義、反権力、イタリア独立運動に共感して、それを暗喩するリソルジメント・オペラと呼ぶべき作品群を残しています。この点においても評価が十分でないのは残念なことです。いずれにしても充実したレジメと映像、お話により、参加者のロッシーニ観が僕を含めてまったく変わってしまったのではないでしょうか。日本で彼のオペラ、とくにオペラ・セーリアが上演されるようになることを祈りたいと思います。水谷彰良さん、ありがとうございました。(橋都浩平)