ルーベンス展—バロックの誕生(概要)

12月例会第2回(463回) 

・日時:2018年12月19日 (水) 19:00-21:00

・場所:東京文化会館 4F大会議室

・講師:渡辺晋輔氏(国立西洋美術館主任研究員)

 略歴:鎌倉出身。東京芸術大学と東京大学で学ぶ。専門はイタリア美術史。著書に『Art Gallery 1 ヴィーナス――豊穣なる愛と美の女神』(共著、集英社)等。企画した展覧会に、『ラファエロ展』『グエルチーノ展』『アルチンボルド展』等。

・演題:ルーベンス展—バロックの誕生

 概要:国立西洋美術館で開催中のルーベンス展について、監修者が解説する。ルーベンスは17世紀、主に現在のベルギーで活動した画家だが、若い頃約8年間をイタリアで過ごし、終生にわたりこの地に愛着を持ち続けた。講演ではルーベンスがいかにイタリア美術を学んで自らの作品に役立て、そして彼の作品がどのようにして次世代のイタリアの画家たちに影響を与えたのかということを中心にお話しする。(渡辺晋輔)

 

463回イタリア研究会例会が開かれました。現在国立西洋美術館ではルーベンス展が開かれていますが、それに関連した内容で、講師は同美術館主任研究員の渡辺晋輔さん、演題名は「ルーベンス展—バロックの誕生」でした。

これを読んで「ルーベンスはフランドルの画家でイタリア研究会の演題としてはどうなの?」と思われた方もあるかもしれません。しかしルーベンスはイタリアに長く滞在した事がありますし、各国の画家やパトロンたちとはもっぱらイタリア語で通信していたくらいイタリア文化に精通していました。そもそも渡辺さんが企画した今回の展覧会が、これまで日本で開催されたルーベンス展とは異なり、ルーベンスとイタリアとの関わりを中心のテーマにしているのです。

渡辺さんが最初に強調したのが、彼がヨーロッパの絵画に与えた巨大な影響です。それは彼の生前から現在に至るまで、ずっと続いており、彼が忘れ去られた時代はありませんでした。これは稀有な事であり、彼の作品のレベルが高くしかも多作でもあったことが影響しています。彼は当時の画家としては異例なほどの高い教養を持ち、並外れた知性の持ち主でした。そのためにクラウディオ・モンテヴェルディ、ガリレオ・ガリレイなど同時代の最高のインテリたちとの付き合いがあり、外交の役割を担って各宮廷にも出入りをして、最高の美術品を目にする事ができたのです。とくにローマに滞在していた時には、ラオコーンを初めとする多くのギリシャ・ローマ時代の彫刻作品のデッサンを残しており、そのモチーフを後の作品の中に繰り返して用いています。いわば彼は石の彫刻に色と生気を与えて画面の中で生き返らせたという事が言えるでしょう。

また彼の作品、とくにローマの境界キエーザ・ヌオーヴァの祭壇画はイタリアの同時代そして後の世代の画家たちに大きな影響を与え、バロック絵画の誕生を促したのです。こうして考えてみると、ルーベンス自身がイタリアに行く事によって、古典美術、カラヴァッジョ、ティツィアーノ、ティントレットらの作品から影響を受けてみずからの芸術を完成させ、その彼の作品がアンニーバレ・カラッチ、グイド・レーニなどに影響を与えてイタリアのバロックが発展したわけですから、ルーベンスとイタリアとの関わりは、我々が考える以上の拡がりを持っているという事ができると思います。

渡辺さん、いつもながらの明快で中身の濃いお話をありがとうございました。まだルーベンス展をご覧になっていない方、ぜひお出かけください。会期は1月20日までです。(橋都浩平)